ユーザー部門が“抵抗勢力”になって失敗!ERP導入プロジェクト失敗の法則(1)(2/2 ページ)

» 2005年08月05日 12時00分 公開
[鍋野敬一郎,@IT]
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ERP導入失敗事例──現場部門の対立

 「同業他社で多数の採用実績があるERP導入が、導入開始直後なのにうまく行っていない」そういう話を聞くことがあります。例えば、以下のようなケースです。

事例A──プロジェクトリーダーの報告

 すでに同業他社において複数の実績があるパッケージを選択し、そのパッケージで経験のあるベンダを使って、先行事例とほぼ同じような期間と費用を投入して始まったERP導入プロジェクト。ところがプロジェクトが始まって間もないはずなのに、早くも進ちょくに遅れが生じているという報告が上がってきた。

 このプロジェクトは、老朽化した経理システムの再構築をきっかけとしてスタートしたもので、同時にそれまで各部門でそれぞれ勝手に構築してきた業務システムをも統合するというものであった。

 ベンダの説明では、実績のある導入テンプレートを適用して6カ月で全社システムを入れ替えるという計画。このシステムの導入により、業務部門の受注・請求管理システムと経理部門の債権債務管理システムを統合し、従来営業と経理で二重入力・二重管理されていた業務を合理化できるという。適用するERP導入テンプレートは、経理業務で必要となる業務要件に十分適応しており、将来の業務量の増大にも対応している。さらに、これまでは月末に他部門からファイルで渡されていたデータも、現場入力によってリアルタイムで更新・共有することができるので、従来よりもきめの細かい情報を統合的に管理できるというものであった。

 しかし、プロジェクト開始と同時にいきなり進ちょくの遅れが報告され、トラブルが報告されたのであった。状況は次のようなものであった。

 問題は、現場の業務部門と経理部門の間に生じた対立であった。つまり、従来のシステムでは経理部が月末に各部門から上がっている伝票を受け取ってこれを入力し、決算処理などを行っていた。それに対して今回導入するERPシステムでは、現場でその都度伝票入力を行い、このデータを経理がチェックして決算処理を行うというプロセスに変更することになる。経理部門にとっては入力作業が削減できること、決算処理の作業負荷が大幅に軽減されることから、決算処理の早期化を実現できるのだが、業務部門にとってはこれまでにはなかったERPシステムの画面から伝票入力するという作業が増えることになる。

 「経理部門の省力化のために、なぜ現場が手間を掛けて入力しなければならないのか」という異論が上がり、ERP導入自体に否定的になってしまっているという。



 このままいくとERP導入はとん挫し、プロジェクト失敗は確実です。

失敗の理由と対応策

 さて、この局面における失敗は「ERP導入による業務プロセス変更の影響が、ERP導入目的に連動して全関係者に理解されていない」ことによるものです。

 ERPシステムは、確かに経理部門のニーズを十分に満たしており、機能面でも優れているという判断が下されたと思われます。しかし、ERPシステムが全社最適を狙いとしたシステムとして設計されているため、経理システムとして十分な機能が、現場部門にとっては逆に作業を増やす迷惑なシステムとして受け取られてしまったのです。つまり、失敗の理由は経理システムの再構築が起点となったERP導入であったためか、プロジェクト関係者が現場部門のことを軽く見ていたということになるでしょう。

 このような状況に陥ったケースでは、導入プロジェクトをさらに進めるための選択肢は2つです。1つは社長など経営トップが現場部門にERP導入による全社統合システム構築の意義を説明し、現場の作業負荷に配慮した対策を明確にしたうえで理解を求める方法。

 もう1つは、ERPシステムを統合システムという位置付けではなく、まずは経理業務システムとして導入するというもの。そして現場にERPシステムの入力画面から入力するのではなく、いったんExcelで作った入力フォームなどを使うといったような、従来プロセスからの移行措置として作業負荷の軽減を図る仕組みを導入することです。現場部門のITリテラシーや作業状況を踏まえたうえでERP導入を進めます。まず、経理部門へのERP導入を第1ステップと位置付けます。第1ステップが完了し、ERPシステムが安定稼動したところで、第2ステップとして本来目指していたERPによる統合システムの導入を進めます。このステップで業務プロセスを見直し、現場部門のシステムをERPシステムに吸収統合します。現場部門で入力したデータは経理部門で利用可能となり、2ステップによる全社システム統合を実現します。

 ERP導入を単なる業務システムの延長線上で選んでしまうというのはよく見られることですが、ERP導入効果には全社統合データベース(基盤)というメリットがあり、これを生かすアプローチこそERP導入の本質だと思います。どちらの選択肢を選んでも相応のリスクはもちろんありますが、どちらが正しいというわけではなく、社内の状況を見極めた判断が必要となるでしょう。これに対しては、経験を積んだベンダ、コンサルタントのアドバイスと十分なリスク管理を持って臨むことにより対処可能です。

ALT 図3 ERP導入の本質(今後のERP導入の視点)

 こうした課題に対して、最近では主要なERPベンダなどがBPM(ビジネスプロセス・マネジメント)というキーワードで業務プロセス指向のERP導入をうたっています。これはまさにこうした過去の経験を踏まえたうえでのメッセージなのだといえるでしょう。

 ERP導入失敗のポイントの第1は、ERPを単なる業務システムの延長線上のものとして機能や価格だけで選定してしまうことであり、ERP導入に対する統一的な目的の不在、関係者それぞれの目的の擦り合わせや論議の不足にあるのではないでしょうか。


 次回からは、前述のチェックポイントごとに、同じように例を挙げながら、「ERP導入プロジェクト失敗の法則」を見極めていきます。

profile

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い最近では、テクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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