ERP導入で、社内の関係者が最も悩むのがERPパッケージと導入業者の選択だ。失敗を防ぐにはどうしたらいいのか。
ERPの導入目的がERPシステム構築だけではないということと、ERP導入のリーダーシップを情報システム部門長に任せっ放しでは失敗するリスクが高くなることを前回ご紹介しました。次のステップは、もちろんERPパッケージの選定とERP導入ベンダの選定ですが、これも簡単ではありません。
ERP導入プロジェクトにおいて、プロジェクト責任者や関係者が一番悩むのが、このERPソフトとERP導入業者の選定です。
せっかくここまでうまくやってきたとしても、自社の業務要件に適用しないERPパッケージを安易に選んでしまったり、カタカナ用語を乱発する偽者ERPコンサルタントの言葉にだまされたりすると、悲惨な失敗が待っています。
このフェイズで難しいのは、ERPパッケージの選定とERP導入を請け負う業者の選定を、分けて考えなければならないところにあります。後述しますがERPパッケージの出来よりも、ERP導入を請け負う導入業者の腕の方がプロジェクトの成否に与える影響は大です。同じERPパッケージを同じ業種の同じ規模の企業に導入しても、一方は成功、もう一方は失敗ということも現実にあります。
初めてのERP導入プロジェクトですから、よく吟味しなければならないのは言うまでもありません。信頼や実績があるということで、情報システム部門がふだんつきあっているパートナーに頼みたくなるところですが、今回に限っては、旧知のベンダに「任せて大丈夫」とはならないのです。
何といっても全社がプロジェクトチームの業者選定に注目するのですから、システムの目利きを務める情報システム部門の存在感も際立ちます。脅かすわけではありませんが、成功しても失敗しても関係者の人生に影響あるターニングポイントといえると思います。
ですから、選定に携わる方々はくれぐれも決断を急いだり安易に妥協したりしないことを薦めます。本当に関係者の人生を変える決断だと考えてください。
まずは、どのベンダのERPパッケージを選定するかを考えなければならないのですが、この時点でよくやる失敗はRFPで列挙した機能要件一覧に沿って深く考えずに機能比較をしてしまうことです。
機能を吟味することは非常に重要です。しかし、機能があることがERP導入の成功を保証するわけではありません。確かに外資系や大手ベンダのERPパッケージは豊富な導入実績と歴史を持っていますから当然機能面でも優れています。しかし、機能が増えれば増えるほど、自社に適用できるかどうかの検証作業は増えてしまいます。機能を使うためのライセンス費用(機能単位やユーザー数)もこれに伴って増えます。ベンダはここぞとばかりに売り込みをかけてきますが、気を付けないと使わない機能や不要なユーザー分まで“お買い得”と思い込んでしまいがちです。
ERPパッケージには豊富な機能がありますが、本当にこうした機能をフルに使いこなせるのでしょうか。私の知る限り、最初からERPパッケージをバリバリ使いこなせる企業はほとんどないようです。ERPを上手に使いこなしている企業は、時間と手間を掛け、試行錯誤して、いく度かの機能拡張やアップグレードなどを経て、ようやく道具としてのERPパッケージの特性を見極めたところが多いのです。
『ERP導入とは全社統合を実現するための手段』、というお話を何度もしていますが、以下のようにシステム面における2つの統合を実現する必要があります。
全社レベルの“統合マスタ”と“統合データベース”を1つのシステム上に実現し、必要な情報をタイムリーに活用できる基盤を作ることがERP導入の目的であるとご理解ください。
例えば、「利用可能在庫」という情報があった場合、営業にとってお客さまに提供可能な在庫数量であり、物流部門にとっては出荷指示があった場合に発送可能な数量であり、経理財務部門にとっては資産としての在庫数量である──というようにいろいろな部門が同じ数字をもとに活動できることが、全体最適の視点でのシステム構築の意味なのです。もし、ここで言葉の定義が部門で違ったり、情報にタイムラグや不整合があったりした場合、業務効率も経営効率も向上することは難しいと思います。ERPパッケージをこのように使いこなせてこそ、ERP導入成功といえるでしょう。
さて、ERPパッケージの選定に失敗しないためのポイントを具体的に4つご紹介します。この4つをできるだけ細分化して1つ1つ確認することをお勧めします。こうした項目を具体的に説明できないベンダや担当営業は論外です。さっさと選定対象から外してしまいましょう。
1.設計思想と機能:Concept and Functions
・どのような背景や素性で開発・発展してきたERPパッケージなのか
・今後どのような機能を拡張して成長するのか(ロードマップ)
2.トータルコスト:Total Cost
・導入、保守運用、アップグレードなど中長期にわたる社内外のコスト試算
・投資対効果(ROI)の評価指標を決めること(アップグレード費用は試算が難しいので要注意)
3.導入実績:Implementation
・どのような業種、業態、規模に強みと弱みを持っているのか(特に失敗した事例やその要因、継続して使用している年数に留意)
4.サポート体制:Support Service
・現行バージョンのサポート体制、開発体制(特に外資系は要注意)
・パッケージベンダのサポートがなくなった場合の対処手段はあるか
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