ERPパッケージと導入業者の選定で失敗ERP導入プロジェクト失敗の法則(3)(2/2 ページ)

» 2005年10月14日 12時00分 公開
[鍋野敬一郎,@IT]
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ERP導入失敗事例──導入業者選定で社内対立

 『ERPパッケージと導入業者はどうやって決めればよいのか』――

事例C:事務局担当者とエンドユーザー部門長の苦悩

 C社は全社を挙げてERP導入に取り組むこととなり、ERPパッケージと導入業者の選定を進めていた。すでにRFPを複数社に出し、この回答を踏まえて最終的に3社まで絞り込みを行った。導入業者選定は大詰めを迎えているが、ここで社内の意見が割れてしまった。3つの導入業者で提案している内容が異なり、その是非をめぐって導入業者を確定できないでいた。

 S社の提案は、外資系大手のERPをベースとしたテンプレートをベースに、短期間、低コストで全社一括導入を行うというものであった。これはC社の競合会社にも採用されており、実績としては十分であった。ただし、この導入テンプレートは、当初導入対象外であった生産部門も含めたものである。C社の生産管理は他社の追従を許さない特有の製造ノウハウにあり、この部分のフィット率は低い。

 A社の提案は、同じ外資系のERPをベースとした導入提案であったが、独自の方法論を適用して業務への適用可否を確認しながら進めるというものであった。先の業者Sの提案に比べて期間、費用ともに倍額近い提案内容だった。

 最後のP社の提案は、新しい国産ERPパッケージ“G”を適用しているが、業者Aに近いものだった。独自の方法論を適用して業務要件への適用可否を確認し、不足する機能は必要に応じて開発元の国産ERPベンダ支援の下で追加開発しながら進めるというものであった。不足機能の開発コストは発生するが、導入期間も費用も業者Sとほぼ同じとのことであった。

 事務局担当者は、期間も短く費用も安いS社の提案を進めたいと考えていた。導入実績も競合他社への実績もありERP導入プロジェクトが成功する可能性が最も高いと思われた。これに対して、エンドユーザー部門は別の見解を持っており、生産管理に自社の強みがあるとの視点で、業者Aと業者Pのいずれかの提案が好ましいと考えていた。特に、他社とは異なる特有の製造ノウハウの実現は、業者Sでは無理と判断したのだが、「A社を選択した場合、アドオン開発は避けられない」「P社を採用した場合、機能面は期待できるが、業界実績がない国産ERPを導入するのはリスクがある」と意見が分かれた。


パッケージよりも導入業者の選定が重要

 いずれの提案にもメリットとリスクがあります。

 このような局面で失敗するのは、やはり安易にS社を選択するケースでしょう。確かに実績のある導入テンプレートで、“ERPシステム構築”には成功するかもしれません。しかし、ERP導入の本質から見ると、「失敗した」ということになる可能性が高そうです。もしS社を選択するならば、適用できない生産管理を外してERP導入を行うか、このテンプレートをたたき台としてA社のような導入アプローチを検討した方がよいでしょう。業種別の導入テンプレートが開発できるレベルであれば、こうしたニーズにも十分に対応できる実力はあるといえます。

 また、P社は確かに国産ERPということもあり実績は少ないかもしれませんが、開発元ベンダ支援の下に必要とする機能が実現できるチャンスがあります。外資系ソフトを採用するということは、サポートや言語、そして欲しい機能を実現するという面で、やはりリスクがあります。ERP導入で先行している競合他社に対する優位性を、国産ERPベンダと組むことで強化するという発想も十分あるといえます。今回に限っては、どの選択が正解と決め付けることはできないのですが、メリットとリスクをきっちりと整理して判断しやすくすることは可能です。

大手業者を“過信”して失敗

 すでに気付かれた方も多いと思いますが、ERPの選定のポイントは良い導入業者を選ぶことにあります。

 よほどいいかげんな選び方をしなければ、外資系ERPパッケージも国産ERPパッケージも本当に必要な機能要件はある程度満たしていると思います。いまでこそ外資系ERPパッケージは機能も導入実績も豊富で、ERP市場を牽引するリーダーとの認識がありますが、日本に上陸した当初の機能はいうまでもなく貧弱でした。もちろんERPという言葉も根付いていませんから、従来の専用の業務ソフトと何が違うのかを繰り返し説明してERP導入の意義を語り、その将来性とコンセプトに価値を認めてもらうという努力をしていました。そのような時代であっても、導入業者の力できちんとした“ERP”を実現していた例はたくさんあります。

 優れたコンサルタントは、限られた機能をどのようにうまく活用すれば、要件に沿ったシステムが構築できるのかを提案することができます。優秀なコンサルタントをそろえることが失敗しないポイントです。

 大手業者は規模も大きく優秀な人材を多く抱えており、導入実績もノウハウも確かに豊富です。しかし“過信”は禁物です。タイミングやコストによって、良いメンバーが確実に導入を請け負ってくれるとは限りません。会社の看板は成功を確実に保証するものではなく、保険程度のものだといえます。

 「会社」ではなく、実際に一緒にプロジェクトを行う業者のプロジェクトマネージャやコンサルタントの個人を見る必要があります。ERPコンサルタントの実力を見抜くコツはいくつかありますが、1)知識、2)提案力、3)実行力、以上3点で見極めてください。この3点に沿って、ユーザー自らがコンサルタントの面接を行うことも有効だと思います。その際には人事の採用担当者に同席してもらうとよいでしょう。一緒にプロジェクトをやるわけですから、社員として一緒に仕事ができるかという目線でメンバー選定することをお勧めします。

ALT 図1 ERPコンサルタントに求められる資質

 まとめですが、ERPパッケージの選定は、機能の豊富さで比較するのではなく、必要最低限の機能と自社のニーズと考え方に合っているかを見極めること。中長期的な視点で将来のサポートや機能拡張、トータルコストといった多面的な評価を心掛けてください。

 そしてERP導入業者の選定こそプロジェクトの成否を左右するポイントであると認識し、導入業者の看板よりもプロジェクトに参画するメンバーの選抜を重視してください。

 さて次回は、ERP導入プロジェクトの導入フェイズにおける社内理解の不徹底が招くリスクについてご紹介いたします。

profile

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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