“全社最適”を実現するためのERP導入には、プロジェクト体制作りが大切だ。しかし、この段階での誤解によって挫折するプロジェクトが多いという。その失敗の法則とは?
ERP導入プロジェクトがうまくいかなくなるポイントはいくつかありますが、フェイズが変わる節目は要注意です。これは、フェイズが移行すると作業目的とプロジェクト体制(メンバー構成)が変わることが主な理由として挙げられます。
各フェイズにはそれぞれ明確な目的があり、それぞれにリーダーシップと責任の所在、与えられた権限が明確でなければ、ERP導入プロジェクトは失敗します。つまり、適切な体制構築とリーダーの選定が重要な鍵となるのです。
ERP導入プロジェクトのフェイズとは、大まかにいうと次の3つです。
1.BPR/業務改革フェイズ
2.ERP導入検討フェイズ
3.ERP導入フェイズ
前回「ユーザー部門が“抵抗勢力”になって失敗!」の繰り返しになりますが、ERPの導入とは「全社最適」という視点で業務プロセスや部門間の活動を見直して情報インフラを再構築することです。これをERPパッケージというシステムを適用して、全社情報を一元管理する統合データベースを構築するのです。企業の経営資源であるヒト、モノ、カネの情報を可視化してムダを省く基盤を作ります。ポイントは部門間にまたがる情報の共有(業務フローの標準化と見える化)と、社内情報入手時間の短縮(リアルタイム化)です。ERP導入効果として一番目に挙げられる「コスト削減」は、こうして統合された情報を活用することにより実現されます。
ERP導入プロジェクトにおける最大の失敗要因は、「2. ERP導入検討フェイズ」における責任体制(リーダーシップ)とメンバー構成にあると私は考えています。このフェイズの目的は、経営戦略や経営課題などを踏まえたうえで、具体的なERPパッケージの選定とベンダの選定を行うことです。
このフェイズでよく見られる『失敗の法則』は、ERP導入を「ERPパッケージを使ったシステム構築である」と、勘違いすることです。ERP導入の成果とは、「ERPシステム構築」と「業務改革」による新業務導入(ルール変更)の両方を実現することです。ERP導入を既存システムとの置き換えと位置付けてしまい、通常の業務システム構築の延長線上でプロジェクトを進めてしまうと「ERPシステムの稼動が、ERP導入目的になってしまった」といわれる失敗になってしまうのです。
では、なぜERP導入プロジェクトを業務システム構築の延長線上で考えてはいけないのでしょうか。このフェイズのプロジェクト失敗の危険性について説明していきましょう。
ERP導入プロジェクトは、部門ごとの業務システム構築プロジェクトの延長線上にあると考えている方が多いようですが、これは明らかに誤りです。前述のようにERP導入の目的は、経営効率を一気に向上させるために全社統合したビジネス基盤を構築することです。システム構築だけが目的ではありません。
ERPパッケージ(単体モジュール)は確かに経理や購買といった業務システムを置き換えるシステムとしても大変有効ですが、やはりERPの本質は部門をまたがる業務の情報を統合データベース上に一元管理することだといえます。たとえプロジェクトのスタートが経理システムの入れ替えであったとしても、最終的には全社各部門の業務をサポートする統合システムを目指すというのが本来のERP=経営全体の効率向上です。
「ERP導入=置き換えプロジェクト」というような間違った認識で、ERP導入検討フェイズのプロジェクト体制を作った場合、必ず情報システム部門長がこのフェイズの責任者として任命されることになります。実際、情報システム部門長がこのフェイズの責任者となるケースは多いのですが、これはシステム構築を意識し過ぎたためです。そして、気付かないままプロジェクトが進行すると、やがてERPシステム稼働がERP導入目的になってしまうのです。
チームリーダーとして情報システム部門長を選ぶことが失敗だといっているわけではなく、これが次の「3.ERP導入フェイズ」のリスクを高くする原因の1つであるということなのです。
気を付けていただきたいのは、「2.ERP導入検討フェイズ」の成果物は、ERPシステム導入のための「ERPパッケージと導入ベンダの選択」と「全社最適を実現する業務改革の計画作り」の2つだということです。
情報システム部門主導では、この「全社最適を実現する業務改革の計画作り」を的確に判断し、エンドユーザーが納得する将来のあるべき姿を見極めるのはかなり難しいのです。では、エンドユーザー部門がリーダーとしてふさわしいのかというと、実はそうでもありません。エンドユーザーが、ERPパッケージの機能比較や導入ベンダ選定を適切に行うのはやはり簡単なことではないでしょう。
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