ERP導入フェイズで、社内理解が得られずに失敗ERP導入プロジェクト失敗の法則(4)(1/2 ページ)

ERP導入で「業務改革」「パッケージ選定」が終わると、実際に導入作業を行っていく「導入フェイズ」となる。1年近くの長期にわたるこのフェイズのリスクはどこにあるのか?

» 2005年11月19日 12時00分 公開
[鍋野敬一郎,@IT]

ERP導入フェイズにおけるリスク

 「業務改革」「パッケージ選定」とさまざまな苦難を乗り越えると、「導入フェイズ」になります。このフェイズに入ると、さらに多くのリスクに直面するのがERP導入の特徴です。

 ERP導入フェイズに入る際、キックオフミーティングで「わが社も全社員一丸となってERP導入を成功し、これをもって会社の発展と飛躍を目指したい!」などとプロジェクトオーナーである社長が“熱弁”を振るったりしますが、その思いどおりにすんなりいくような“あま〜い!”プロジェクトはほとんどありません。むしろ、これまでまったく経験したことがなかった予想外の苦難やリスクに立ち向かう激動の1年間が待っています。

 ERP導入プロジェクトは、通常6カ月から1年間くらいかかるものです。どのベンダのERP製品を選んでも一般的に「準備」「設計」「構築・テスト」「移行・ユーザートレーニング」、そして「本番稼働」という順序で進んでいきます。どの工程においてもさまざまなリスクがあります。経験豊富な導入業者は、こうしたリスクをよく知っているので上手にツボを押さえた対応をしてくれます。後から振り返ってみれば、なるほどと思うところが随所にあるのですが、当然のことながら初めてのERP導入プロジェクトの最中にこれに気付くことはまれです。

ALT 図1 ERP導入フェイズの各工程(クリック >> 図版拡大)

 ここで導入業者のコンサルタント投入に関するワンポイントアドバイスです。初期の「概要設計」や「全体スケジュール」を決める工程にはどれだけ高額でも、その業者の最高レベルのコンサルタントを一点集中で投入してください。そして、徹底的にプロジェクトのリスクファクターとポイントを聞き出してください。導入する企業やその状況によって、ERP導入フェイズのリスクは変わってくるのですが、経験豊富な優れたコンサルタントはそのポイントと内容を的確に予測してくれます。

 この後コンサルタントの投入をためらわずに行うべきところは、後半の「構築・テスト」作業の工程です。この工程は、とにかく納期に間に合わせるための人海戦術がポイントですので、コンサルタントのレベルもさることながら頭数が必要です。

 こうしたメリハリある導入業者のコンサルタント投入は、もちろんそれなりの予算を必要とするものですから、できればプロジェクト予算については導入業者が概算提示した費用の1.5倍程度は確保しておいた方がよいと思います。「詳細設計」が終わった時点で、再度積み上げで費用総額を導入業者に見積もりさせるようにした方がよいでしょう。そして、ここからいかに費用を削っていくかが、ERP導入費用を抑える腕の見せどころです。

 続いてERP導入フェイズにおける作業工程ごとに想定される、プロジェクトリスクの一例をご紹介していきます。

ALT 図2 各工程におけるリスクの例(クリック >> 図版拡大

ERP導入プロジェクトのヤマ場での裏切り

 ERP導入作業における最大のリスクは、社内の裏切りです。

 当初は社長の鶴の一声もあって、全社でプロジェクトを進めようという積極的な雰囲気があるのですが、プロジェクトも中盤を迎えるとこうした前向きな姿勢から、“抵抗勢力登場!”といった状況へと変わります。

 この工程で見られるのが、「総論賛成、各論反対」というユーザー部門の反発です。そして、その先頭に立つのが各部門の責任者の方々です。

 これは、「部門の不利益と、現状より増えるムダな作業負荷から部下を守らなければならない」という自部門の保護と既得権の維持、そして新システムに起因する業務負荷の増加を忌避したいという考えが、こうした抵抗勢力を生むのです。

 ERP導入プロジェクトにおけるユーザー部門の役割はただ1つ、「速やかに決めること」です。ERPシステムを稼働させるための設定作業は、どの部門が何に責任を持つのかを適宜決めることであり、これがERP導入作業そのものといえます。

 あるお客さま企業のプロジェクトリーダーの方のお話では、「ある日突然、経理部の部長と次長が定例ミーティングをボイコットしてプロジェクトが頓挫しそうになったので、覚悟を決めて残業で残っていた課長をプロジェクトルームに拉致して、徹夜で無理やり業務要件と設定内容を決めさせた」というケースさえあったそうです。

 結果、「動いてよかった」となるのですが、できればこうした事態は避けたいところです。とはいえERP導入ではよく聞く話ですから、プロジェクトリーダーの皆さんは心構えとして覚えておいてください。裏切りや抵抗勢力があまりに厳しくて、辞表を携帯してプロジェクトに望んだというエピソードも聞いたことがあります。

 前回でお話ししておりますが、こうした状況にどれだけ適切に対処できるかが導入業者のコンサルタントの腕です。導入業者とそのコンサルタントの選定が、プロジェクトを失敗しないための重要な選択であることは、くれぐれも忘れないでください。失敗が見えてから慌てて優秀なコンサルタントを投入するのは、時間もコストも大きくムダになります。何事も最初が肝心という姿勢で臨んでください。

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