ERP導入効果が見えず、アップグレードもできずに失敗ERP導入プロジェクト失敗の法則(6)(1/2 ページ)

ERPパッケージというプロダクツには、「アップグレードによって、常に最新システムを提供する」というコンセプトがある。しかし、実際にアップグレードを“成功”させているユーザー企業は少数だ。真の“ERP導入成功”へ至る道とは?

» 2006年01月31日 12時00分 公開
[鍋野敬一郎,@IT]

ERP導入プロジェクトの真の勝者とは?

 ERPシステム導入に“成功”した企業は多くありますが、ERP導入に本当に“満足”している導入企業は少ないといわれています。

 システムが本稼働した時点でERPパッケージベンダがプレスリリースを出したり、IT雑誌などで記事になっているのを皆さまもよくご覧になっていると思いますが、これは「ERPシステムが稼働を開始した」というだけのことで導入効果やメリット、満足度を評価するのはそのずっと後になります。

 私見ですが筆者はERP導入プロジェクトの“成功企業”とは、ERPを使いこなそうとして試行錯誤を繰り返し続けている企業だと考えています。つまりビジネスに終わりがないのと同様に、システムにも完成はなく改善を続けることが“失敗しない”ことの秘訣なのだと思います。しかし読者の皆さまもよくご存じのとおり、ERPを導入したといっても会計や購買といった部分使用のみで、適用範囲を増やさないまま、数年後に結局捨ててしまう事例があります。これはERPを導入してはみたものの、その後使いこなすことをあきらめて失敗のまま終わった例です。

 ERP導入の価値は、システム稼働後の取り組み姿勢で決まります。ERP導入に“成功した企業と失敗した企業”の見極めは簡単です。それはERP導入企業が避けて通れないアップグレードへの対処で決まります。

 極論かもしれませんが、ERPシステムをアップグレードすることはイコール“成功と失敗”の境目を決める最後のハードルだといえるでしょう。なぜならばERPパッケージの性質上アップグレードは大前提ですから、アップグレードできないということは従来の手作りシステム同様にERPを塩漬けシステムにしているといえるからです。

困難な導入効果の評価

 アップグレードの具体的な話に入る前に、ERP導入効果について触れておく必要があると思いますので考え方について簡単にご紹介します。

 一般的にERP導入プロジェクトの成否を判断する手段として、導入効果やROI(投資対効果)、TCO(総保有コスト)というキーワードが使われます。

 ERP導入効果には、「部門間の情報共有が進む」「業務プロセスが標準化する」というような“定性効果”。「在庫削減40%」「月締め処理を5営業日以下に短縮」という数値で評価する“定量効果”。そして「RFIDや新技術に先進対応し、競合他社に勝るアドバンテージを得る」というような業界に先駆けてチャレンジするものや、「ERPのリアルタイム処理機能を駆使した顧客支援情報の強化」といった競合他社に対する優位性を確立するなどの“戦略的効果”の3つが挙げられます。

 現実にはROIやTCOについては、ITコスト削減や中長期的なコスト抑制を具体的な金額で試算できますが、導入効果についてはその目標の設定と評価が難しいことからどの企業も似たり寄ったりになります。特に戦略的効果に及んでは、まじめに検討をしていないケースの方が多いようです。

 “定性効果”と“定量効果”はERP導入プロジェクトの計画フェイズで目標を設定しますが、その評価結果はシステム稼働後なので実際にはあいまいにするケースが多いようです。政治的に“社長プロジェクト”のシステムの良しあしを評価するのは、減点主義がまだまだ根強い日本企業にはなじまないようです。

 欧米でも以前は導入効果評価にまじめに取り組む企業は少なかったようですが、最近ではアップグレードを契機としてユーザーグループが積極的に“ERPを使いこなす”という目標を掲げて取り組むようになってきました。

 “戦略的効果”は適切な設定や評価が難しいのですが、最終的に一企業の評価にとどまらず、業界の先進事例や業界標準を提唱するといったレベルで評価されることが多いように思います。つまり業界全体に一石を投じるソリューションとしてERPを活用する視点が戦略的といわれるようです。

 具体例としては、総合商社や大手化学会社が同じベンダのERPパッケージを導入し業界特有機能やノウハウを共有している例などが挙げられます。またこうした成功事例は、リーダーとなる先進企業とユーザー会の存在が成功要因の大きな要素となります。

アップグレードへのアプローチ

 さて、本題のアップグレードについてご紹介したいと思います。

 ERPが日本市場に登場して10年余りたちますが、アップグレードを経験している企業は実はそれほど多くありません。その主な要因は、ERPのアップグレードが想像以上に難しいものだからです。

 ERPパッケージは大抵、2〜3年でメジャーバージョンアップがあります(マイナーバージョンアップは、多い場合で1年数回以上)。通常は上位互換になっており、標準機能に関してはそのままアップグレード移行できます。新バージョンのERP提供は保守料に含まれますし、アップグレード移行ツールもERPパッケージベンダから提供されています。しかし、機能の差分やアドオンの検証は自らが行う必要があります。さらに古くなったハードウェアも当然見直しが必要になります。参考までにアップグレードに必要な費用項目とその総費用比率の例を以下にご紹介します。

  1. ハードウェア費用(サーバ、クライアント環境):5%程度
  2. 技術要件検証費用(OS、DB、ミドルウェア環境):20%程度
  3. 機能要件検証費用(標準とアドオンの機能検証):30%程度
  4. テスト・ダウンタイム(移行検証、リスク管理):25%程度
  5. エンドユーザー対応(研修、マニュアル作成等):10%程度
  6. アップグレードプロジェクト管理(計画・実行):10%程度

 具体的なERPアップグレードの手順は図を参考としてご覧ください。実際にはアドオン機能が多ければ多いほど、アップグレード費用と作業期間は高く長くなります。今更いうまでもありませんが、ERPアップグレードの最大のボトルネックはアドオンにあります。また、エンドユーザーへの対応もアップグレードを乗り切る重要なキーファクターです。こうしたノウハウは、ERPパッケージベンダ、ユーザー会、アップグレードプロジェクトに実績のある導入業者が持っています。

ALT 図1 ERPアップグレードの手順(クリック >> 拡大)
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