CDの売り上げ減少に苦しむ音楽業界は、ライブを録音するという従来の「ブートレッグ」の概念にハイテクかつ合法的なアプローチで取り掛かろうとしている。
ラジオ複合企業である米Clear Channel Communications傘下のClear Channel Entertainmentで音楽を担当するInstant Live部門は、ライブコンサートの録音CDを即席で提供しようと試みている企業の1社だ。その手法は、その場で録音をミキシングし、ライブ会場を後にする観客に販売するというもの。Universal Music GroupとInstant Liveが9月26日に提携を発表したことで、この「即席ブートレッグ」の概念はさらに一歩前進しようとしている。
両社幹部によれば、今回の契約は大手音楽会社によるこの手の提携としては初めてのもの。またこの提携は、オンサイトで質の高い編集を施したライブ録音の販売を拡張し、オンラインで配布し、さらには来年のいずれかの段階で、MP3プレーヤーなどのデバイス向けにダウンロード製品として販売するというClear Channelの計画にも合致している。
Clear Channel Music GroupのInstant Live部門のジェネラルマネジャー、スティーブン・プレンダガスト氏によれば、26日に発表した提携は、Universalの各種の系列レーベルとの連携によるライブ録音の生産への道を開くものという。Instant LiveはUniversalとの提携により、今後、収益や録音の所有権のためのある意味テンプレートとなる合意を得られたことになる。
「研究開発の段階を終え、それをビジネスへと転換させつつあるところだ」と同氏。
同氏によれば、Universalの各レーベルとの提携によるInstant Liveの録音CDは、ライブ会場で販売されるほか、Instant LiveのWebサイトや個々のアーティストのサイト、およびオンラインの小売りサイトを介しても提供されることになる。
ライブ録音を販売するというコンセプトは、1960年代に起きたことの再現だ。当時、アングラのブートレッグ業界が、レコードレーベルとは無関係に活動し、例えば、行きたいのに行けなかったライブの録音を提供するなどして、音楽ファンのニーズを満たしていた。ライブに実際に行った人たちも、こうした録音でライブの感動を再び味わうことができた。音楽会社もライブ録音を提供してはいたものの、ブートレッグ業界の品ぞろえの方がはるかに広範で、通常、低めの価格で提供されていた。だが、そうしたアングラ市場は、無許可のテープをベースとしており、未編集の録音のクオリティにはバラツキがあった。
それがここ数年は技術のおかげで、アーティストにとっても企業にとっても、観客に即席ライブ録音を販売することが収益性を帯びてきた。しかも、すべて合法な手段によってだ。グレイトフル・デッドやブラック・クロウズといったアーティストや、Sonance Entertainment Group傘下のLive Discs、Immediatek傘下のDiscLive、Clear Channelなどの企業がこのコンセプトをさらに進展させ、昨年には、より多くの観客にリーチが広がり始めている。
プレンダガスト氏によれば、今年4月と5月に行われたブラック・クロウズのツアーには、録音とCDの焼き付けのためにInstant Liveの移動部隊が同行し、ライブに訪れた2万4000人の観客の間で8000枚の即席ライブCDが売れたという。
同社は周囲の音をキャプチャできるよう、会場のあちこちにマイクを設置し、現場のミキシングボードでステージと楽器の信号をミキシングしており、秋にはDolby 5.1のライブ録音をリリースする計画だ。
「ライブアルバムは迫力に欠けると感じことがある。私たちは、会場に参加しているような臨場感を、特に車の中で味わってもらえるようにしたいと考えている」とプレンダガスト氏。
Clear Channelはこのコンセプトをさらに前進させたい考えだ。例えば、インターネットのブロードバンドアクセスを使えば、オフサイトでの中央集中方式のスタジオ編集とミキシングにより、現場で行うよりもさらにグレードの高い録音を行える。プレンダガスト氏は、ブロードバンドの伝送能力を使って、オフサイトでのミキシングを即席アルバムに採用し、ライブの観客に提供する計画だ。
「機材を載せたトラックをクリーブランドの現場に送り込み、当社のロサンゼルスのスタジオでミキシングを完成させて、それをまたクリーブランドに送り返してその場で焼き付けるという方法よりも、クリーブランドからデータを受け取る方が、私たちにとってははるかに楽だ」と同氏。
生産能力も増している。現在、Instant Liveは1度に約1000枚を焼き付けられるため、セットリストを省いた印刷済みのカバーを用意しておけば、終演からわずか数分で最初のCDを提供できる。
「問題は、アリーナレベルにどう対応するかだ」とプレンダガスト氏。
Instant Liveが2003年に創業した際には、機材一式は大型トレーラーに満杯だった。今では、すべての機材が中型のバンに収まっている。CD自体もかなりかさばるが、将来的にデジタルダウンロードを提供できるようになれば、これはたいした問題ではなくなるはずだ。
この夏、Clear Channel EntertainmentとVerizon Wirelessも携帯電話向けにライブクリップの提供を開始した。
従来のアルバムの売り上げ減にもかかわらず、これまでのところ、ライブ会場で販売される限定版の即席CDは観客の人気を博している。プレンダガスト氏によれば、即席ライブCDが提供されているライブの場合、実際にそのライブを見た観客の約17%が即席CDを購入している。Clear Channelのこれまでの経験からして、ライブの観客にとっては、2枚組みの即席ライブCDは25ドルというのが妥当な価格だという。
一部の録音はコレクターズアイテムにすらなっている。
「確かにそうだ。一部の限定版CDが350ドルもの高値で販売されていたことがある」とプレンダガスト氏。
Clear Channelが2004年、同社主催のライブの会場でバンドが自ら即席アルバムを作成しようとするのを阻止した際には、バンドやファンたちの間で、特許の問題をめぐる議論が湧き起こった。当時Clear Channelは、そうした試みはインスタント録音とミキシングシステムに関する自社の特許の侵害にあたると主張していた。だが今年4月にImmediatek傘下のDiscLiveからInstant Liveに加わったプレンダガスト氏は、自ら録音を行いたいというバンドと仲直りしたい考えのようで、今後この特許を武器にはしないと強調している。
「私たちは、このシステムを皆で共有し、利用してほしい。ただし、関係者皆が金銭的なメリットを享受できるような適切な方法で行う必要がある」と同氏。同氏によれば、Instant Liveはサービス指向のアプローチを取り、バンドには、現場での録音と製造の各種オプションのリストを提供する方針という。
プレンダガスト氏は、アリーナクラスのコンサートに対処できるほど十分な量を生産するためのアイデアを求めている。
「どうすれば、50万もの観客にCDを提供できるだろう? 何か良いアイデアがあれば、ぜひご教示いただきたい」と同氏は語っている。
Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR