レーベルゲートは、音楽ダウンロードサービス「Mora」をAny Music(以下エニーミュージック)に提供している。同社の山口望さんに、音楽ダウンロードサービスならではのユーザーメリットや、Moraの特徴、音楽を楽しむ環境の変化、エニーミュージックへ期待することを聞いた。
リビングのソファに腰掛け、TVやFMを楽しみながら気になった曲を、すぐさま眼の前のオーディオ機器からネットで購入する――今まで物語の中のワンシーンでしかなかった風景が現実のものになった。
PCを使わずに、「音楽ダウンロードサービス」+「オンラインCD購入」+「FMオンエア情報」を利用できるサービスが「エニーミュージック」。レーベルゲートはエニーミュージックに、音楽ダウンロードサービスの「Mora」を提供している。レーベルゲート プロモーション・チームの山口望さんに、音楽ダウンロードサービスならではのメリットや、Moraの特徴、音楽を楽しむ環境の変化、エニーミュージックへ期待することを聞いた。
配信楽曲数が日本でトップのMoraサービス
レーベルゲートは、レコード会社を含む18社の出資による音楽ダウンロード販売の専門会社。今年4月にはサービスブランド「Mora」を立ち上げ、エイベックス、キングレコード、ソニー・ミュージックエンタテインメント、東芝EMIなど多くのメジャーレーベルの作品を配信している。7月からは配信レーベルにワーナーミュージック・ジャパンも加わり、アルバム単位での提供も開始している。まず最初に、Moraサービスについて聞いた。
「やっぱり、出かけなくても聴きたい曲が手にはいるのは楽しいし、楽ですね」。ダウンロード購入ならではのメリットの一つは気軽さと、山口さんは言う。
「仕事柄、ほかのフロアに行けばCDがすぐに借りられるんですが、ついダウンロードしちゃいますね(笑)。それに、聴きたい曲があれば1曲だけでもすぐに買えるのも、音楽配信の魅力です」
比較的古い曲だとCDショップへ行っても在庫がなく、手に入りにくいということもままある。そうした場合でも、ダウンロード購入ならば在庫切れの心配がないので、いつでも好きな曲が買える。
Moraではアルバム単位での販売も行っているが、現在のところ、1曲単位の販売を利用するユーザーの方が多い。購入者の男女比は、現在男性3対女性1という割合だそうだが、徐々に女性の比率が増えているという。
「今まではPCを使わなくちゃいけないというハードルがありましたが、エニーミュージックのように家電から曲のダウンロードができるようになれば、もっと気軽に曲を買えると思うんです。ネット通販みたいに、どんどん女性にも気軽に使ってもらえるといいですね」。山口さんは女性ならではの感想を述べる。
同社以外にも音楽ダウンロードサービスを提供している企業はあるが、Moraの特色とはなんだろうか。
「レコード会社が自ら出資して、運営されているという点が一番の違いです。メジャーやインディーズを含めて30近くのレーベルがMoraから音楽を配信していますし、レコード会社自身が運営していることによって、新曲の配信や配信曲数にもいい影響を与えていると思います」
Moraの配信曲数は7月上旬現在で約3万8000曲。これは現在日本国内で有料音楽配信サービスを行っている配信元の配信数としてはトップクラス。しかも、夏までに10万曲、来年3月までには15万曲の収録を目指しており、今後もトップとしての地位は揺らぎそうにない。
さらにMoraでは、一般的なクレジットカードによる決済のほか、プリペイドカードのWebMoneyや電子決済サービス(Smash)でも決済が可能で、最新の非接触型ICカード「Edy」「elio」による決済も可能。こうした多彩な決済方法が用意されているのも、音楽配信サービスを初めて使うユーザーへ門戸を広げる役目を果たしている(※編集部注:エニーミュージック経由での決済は、クレジットカードのみ)。
ダウンロードのスタイル、落とした後の楽しみ方も広がるエニーミュージック
しかし、エニーミュージック対応機でMoraのサービスを受けられるようになった、というだけでは以前からある音楽配信サービスが大規模になっただけのような印象も受ける。エニーミュージックサービスについての率直な感想を聞いた。
山口さんは「ダウンロードした曲をPCで楽しむだけが楽しみ方ではない」と、ダウンロードした音楽の楽しみ方こそが重要だという。
エニーミュージックは「リビングで音楽を24時間ダウンロードし、そのまま楽しむ」というスタイルを提案したものだが、山口さんにとっても、この体験は新鮮なものとして映ったようだ。
「初めてエニーミュージックで音楽を聴いたときには“おおっ!”と思いました。今までもPCにスピーカーをつなげてはいましたが、全然別物のように聞こえました。やっぱり感動が違いますね。PCだと聞く環境が人によってまちまちですが、エニーミュージックのようなちゃんとしたオーディオ機器ならば、配信した音楽の良さを最大限に引き出してくれます」
Moraで配信に使われているATRAC3はそもそもMD用の規格として開発されたもので、その経緯から、オーディオ機器での再生に適した特性を持っているからだそうだ。それに、対応機器は有名量販店などで展示されているため、外出先などで気軽にエニーミュージックの“音”を体験することもできる。
エニーミュージックがもつFM情報オンエア情報も山口さんのお気に入り。「結構ラジオは聞いていた方です。“何時何分にかかった曲は何ですか?”とか電話して聞いていたぐらいですから(笑)。放送中の曲名がすぐに分かって、その曲をダウンロード購入できる仕組みにはとても驚きました」
そしてダウンロードした音楽を楽しむのは何もリビングだけとは限らない。エニーミュージック対応機にはNetMDが接続可能になっているほか、メモリースティックスロットを利用して携帯電話などにも購入した音楽を持ち出せる。
「音楽を聴く場面というのは、必ずしも家の中とは限らないですよね。通勤・通学の途中や、あるいは会社内や旅先で聞くこともあると思います。そう考えると、NetMDやメモリースティックへ持ち出せることは非常に大切なことだと思います。曲数がいくら増えても、活用できる局面が増えなければユーザーにとってはあまり意味がないですよね」
NetMDを持っていても、普通のMDと同じようにCDからのダビングにしか使っていないユーザーも多いことだろう。山口さんは、「聴き方の選択肢をいかに提案できるか、これが今後の私たちの課題ですね」と自らのテーマを語る。
これは、単純にCDを購入しただけでは体験できない、全く新しい音楽との接し方を同社が提案していこうという意気込みでもある。
音楽配信はインフラへ――あることが自然なサービスに
「今までは、音楽配信というとPCのヘビーユーザーが利用するものという認識をされていたので、これからは音楽ファン全体へのアピールが大切になると思います。エニーミュージック対応機のように、いかにもオーディオ機器のような姿形も大切だと思うんです」
「例えばですけれど、女子高生がPCに向かってバリバリ検索するような姿は想像しにくいじゃないですか。エニーミュージックのようなデジタル家電に向けての配信は、今後さらに注力していきたいですね」
脱PC。これがこれからの音楽配信サービスに求められるキーワードになりそうだ。TVを見て、気に入った音楽が流れたらエニーミュージックのボタンを押して座ったままで音楽を買う――特別に意識することなく、音楽をダウンロードするという流れが生まれようとしている。
しかしながら、まだまだこの流れは生まれたばかりだ。
「エニーミュージック対応機は、将来的にはオーディオコンポのと同じもの、もしくはコンポの一機能として扱われるようになると面白いですね。そうすれば、私みたいに機械が苦手な人も自然な感じで音楽配信サービスに触れることができると思うんです」
山口さんは、音楽配信サービスが今のTVやラジオのように、生活にとけ込んだ当たり前のインフラになればと期待を述べる。そのためにも、今後は低価格製品やDVDプレーヤーとの複合製品など、聞く人の生活スタイルにマッチした製品の登場が望まれるという。
「エニーミュージックで初めて音楽を聴いたとき、いいじゃない!と素直に思いましたし、友達にも使ってみてほしいとも思いました。まずは体験してみてほしいですね」
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[渡邊宏,ITmedia]