「IPTVの課題」――意外に知られていないその事情:デジモノ家電を読み解くキーワード
インターネット経由で映像が配信されるのも当たり前になったが、テレビ向けに配信する「IPTV」はまだ普及の初期段階。そのIPTVが普及するため、乗り越えなければならない課題を考えてみたい。
IPTVで地デジが視聴できるまで
IPTVとは、一般にIP網(インターネット)を介して家庭用テレビへ配信される映像および配信のサービスを指す。しかし、全世界で統一された規格はなく、国内でも複数の規格/仕様が入り乱れるバズワード的な側面も持っている。
国内の場合、第一に運営会社が「電気通信役務利用放送法」の条件を満たすかどうかという基準がある。満たす場合は放送の方式により、従来のCATVと同じ(IPベースではない)方式の「RF方式」と、インターネット網で配信する「IP方式」の2種に分類される。それ以外の企業/サービスはすべて「ビデオ・オン・デマンド(VOD)」であり、同法が適用されない「非放送事業者」として扱われる。
以前、IP方式を採用する事業者に地上デジタル放送の再送信(放送コンテンツをIPネットワーク網でリアルタイムに流すこと)は許可されていなかったが、地上デジタル放送の視聴可能地域を補完する措置として規制が緩和され、2008年3月にはNTT地域会社に対して認められた。「フレッツ光ネクスト」などのサービスで地デジの視聴が可能になるまでには、このような経緯があったのだ。
着々と整備されるIPTVのインフラ
IPTV普及の背景には、高速/大容量な次世代ネットワーク(NGN)網の拡大がある。前述のフレッツ光ネクストもNTT地域会社が提供するNGNサービスであり、広い帯域が必要な地デジ再送信には欠かせない要件となる。
フレッツ光ネクストのサービス提供エリアは、現在のところBフレッツ提供地域の約73%に留まるが、NTT東日本は2009年9月までにBフレッツ提供地域の約90%(主要市区町村)、2009年度中にはBフレッツ提供地域の全域へとサービス提供エリアを拡大すると発表している。都市部におけるIPTVのインフラは年内を目処に一応の完成を見る、と理解していいだろう。
今後の課題は「仕様の統一」
薄型テレビで採用が進む「アクトビラ」など、VOD型テレビサービスは急速に普及しているが、それはメーカー間の協力による統一仕様があってこそ。一方IPTVの受信には、サービス会社が決めた仕様に基づき開発された受信機(STB)が必要であり、それが普及の妨げになっているという指摘もある。
AT&TやSony、Ericsson、France Telecomらは2007年に「Open IPTV Forum」を設立、IPTV関連技術の標準化を目指し仕様の策定を進めているが、国/地域ごとに法律や放送規格が異なるなどの事情から、国際標準化を危ぶむ声も根強い。日本でも、2008年に「IPTVフォーラム」が設立され国内規格一本化を推進している。インターネットという世界に広がるインフラを使うIPTVだが、当面は国/地域の事情をふまえた群雄割拠の状態が続く可能性が高い。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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