CEATECに見えた、“非日用品”テレビを目指す2つの潮流:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
“3D CEATEC”とも言われた今年のCEATEC JAPAN。ややもすると3Dばかりが注目されるが、麻倉氏は日常品化の進む薄型テレビの現状を打破する2つの潮流があると指摘する。
Cell REGZAは東芝の新たなスタート地点
麻倉氏: 3Dと並ぶ人気だったのが、東芝の「Cell REGZA」です。東芝ブースでは私もさまざまな講演をしました。講演参加の整理券の行列ができるほどで、連日活気に満ちていました。
100万円という値段は確かに高いのですが、シャープのLEDバックライト初代機「LC-65XS」より安価で、新しい技術の流れを示す1台として考えれば、そう高価ともいえないでしょう。製品が安くなることは確かに歓迎すべきですが、それはすぐにテレビの平準化/日用品化(コモディティ化)に結びつきます。夢があって、ワクワクできるのが、これからのテレビのありかたのひとつではないでしょうか。Cell REGZAは、それをCellのチカラを借りて表現したといえるでしょう。
余談ですが、本来であればソニーがこのようなものを作るべきでした。久夛良木氏はさまざまなAV機器にCellを搭載し、“CELLネットワーク”を構築してという計画を持っていたのですが、退任後、その流れはなくなってしまいました。製造設備も東芝に売却してしまいましたしね。
確かにCellの取り扱いは難しいのですが、現在の基礎となった計画は4年前に存在していました。信号処理で新しい価値を創造しようというのが東芝の基本的な考えで、そこからメタブレイン、メタブレイン・プロと優れた回路を開発し、高画質化を進めてきました。その結実が、Cell REGZAなのです。ソニーよりはるかに偉いですね。なぜ東芝にできて、ソニーにできなかったのか、ソニーは猛省しなければなりません。
Cell REGZAが持つ、再構成法/自己同合性を用いた超解像やLEDバックライト制御、全録レコーダー、ユーザーインタフェースなど、これまでテレビの夢のように語られてきた機能までも、ほぼすべてをCellが処理しています。視野角など部材に起因する問題も抱えてはいますが、機能だけではなくチャンネル切り替えなどなど動作の俊敏さもCell搭載の恩恵であり、まさに“あるべき”姿のテレビになったといえます。
今回は液晶テレビとCellプロセッサを組み合わせていますが、レコーダーを始め、ワンセグテレビなどのポータブル機器に組み込むのもありでしょう。フルスペックのCellプロセッサ(Cell Broadband Engine)ではなくSpurs Engineにすればコストも下げられます。テレビのためのCELLではなく、「CELLをどのように使っていくのか」は今後の同社が検討すべき課題でしょう。Cellワンセグテレビ、Cell BDレコーダー、Cellカメラ、Cellオーディオ、Cellシアター……など発想はいくらでも出てきます。
映像ばかりが注目されていますが、設計担当者が「どこまで音質を向上させられるか」をテーマにしたチャレンジした結果、音質もかなり向上しています(→圧倒的な頭脳に見合う“音”とは? 「Cell REGZA」のスピーカー)。まだデジタルっぽさを感じさせるので、細かなチューニングは必要かと思いますが、隙(すき)のないテレビになっています。
Cell REGZAはたくさん販売するというより、“新しいテレビ像”“強力なプロセッサとAV家電の融合”を探るスタート地点に東芝が立ったことを示す製品です。コモディティ化しつつあるテレビの反対方向を目指すという意味でも大いに期待したいです。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)――初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。
「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)――高画質への闘いを挑んだ技術者を追った「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
関連記事
- デジモノ家電を読み解くキーワード:「フレームシーケンシャル」――家庭用3Dのキーテクノロジー
CEATEC JAPAN 2009で来場者の熱い視線を集めたのは、なんといっても「3D」。今回は、薄型テレビメーカー各社が採用する3D技術「フレームシーケンシャル方式」を解説する。 - 圧倒的な頭脳に見合う“音”とは? 「Cell REGZA」のスピーカー
「CEATEC JAPAN 2009」で注目を集めた東芝「Cell REGZA」。録画機能やメガLEDパネルなど見るべき部分が多い機種だが、薄型テレビの課題といわれてきたスピーカーに力を入れたことにも注目したい。同社ブースで詳しく話を聞いた。 - 本田雅一のTV Style:CEATECこぼれ話 ソニーの3Dテレビが変わった理由
「CEATEC JAPAN 2009」では、昨年のパナソニックに続き、ソニー、シャープ、東芝も3Dテレビを参考展示した。いくつかのメーカーは、すでに製品化をにらんで完成度をアピールするフェーズに入ったようだ。 - CEATEC JAPAN 2009:6人それぞれの視点で“飛び出す”立体ディスプレイ
NICT(情報通信研究機構)の展示する3Dディスプレイは、メガネ不要かつ、視聴者の位置が変われば、見え方も変わるという体験を提供する。26ch構成の立体音源再現技術も興味深い。 - CEATEC JAPAN 2009:フルハイビジョン3Dテレビの最新事情
幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2009」では、2010年に登場する見込みの3Dテレビが大きな注目を集めている。ソニーやパナソニックにくわえ、今回はシャープや東芝も試作機を出展した。それぞれの展示内容からスタンスの違いも見えてくる? - CEATEC JAPAN 2009:CEATEC JAPAN開幕、“頭脳”“立体”テレビが注目を浴びる
アジア最大級のITエレクトロニクス総合展示会「CEATEC JAPAN」が開幕した。今年の目玉はやはり3Dテレビだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.