再起動が求められるコンテンツ立国日本:小寺信良の現象試考(2/2 ページ)
「コンテンツ立国」――日本の目指す方向を語る際に頻出する言葉だが、その実現はあまりに遠いと感じさせる出来事も多い。2009年に起こった知的財産に関する話題を振り返りながら、注目すべき点について解説してみたい。
アナログ停波目前のテレビライフ
地上アナログ放送停波が予定されている2011年7月24日まで、約1年半と迫った。停波に関する周知は十分だろうとは思うが、経済的理由以外でデジタル放送対応テレビに移行しない人は、テレビ受信に対してそれほどひっ迫した必要性を感じていないのだろう。小さい子どもがいる家庭は、やはりNHK教育は映った方が便利なのだが、独身者ならば止まったらどれぐらい不便になるかを考えて必要なら何か買う、というぐらいに考えている人も多いのかもしれない。
デジタル放送受信の選択肢は、以前に比べてかなり増えた。少なくともワンセグならばほとんどのケータイで受信できるし、PC用USBフルセグチューナーもかなり小型化され、低価格になった。見るだけなら、方法はいくらでもある。
そんな中でビデオレコーダーの低迷が起こるのは、必然であろう。多くの人はもはや、必死になってテレビ録画に挑む情熱を失ってしまったように思える。それというのもやはり情報の入手性という点で、インターネットがある意味理想型を提示してしまったからであろう。
見たいものを探して、その場でいいところだけ見る。こう書くとテレビ番組の違法アップロードを連想するが、多くの人はそれがテレビ番組なのかPVなのかアマチュアの投稿なのか、あまり区別していないのではないか。したがってそれが違法なのか合法なのかの意識もしていないはずであり、探したら見つかっちゃったものに対して、それを見るかどうかのモラルを問われるという、非常に難しい選択を迫られている。
ネット上のコンテンツは、「そういうものを上げるヤツが悪い」としただけでは足りず、「落としたヤツも悪い」というところまで来た。次は「見つかるべきではない」という議論になっていくだろう。特定コンテンツ(主に児童ポルノの類だが)へのブロッキングは、すでに欧州諸国では自主的取り組みとして取り入れているところもあり、今年は日本でも何か具体的な動きがあるかもしれない。
話がテレビ録画から脱線してしまったのでむりやり軌道修正すると、テレビ録画という行為も変質すべき時期に来ている、ということである。ソニー“VAIO Type X”「VGX-X90P/PS」やPTP「SPIDER」、東芝「Cell REGZA」が指し示しているように、もはや全チャンネル録画は必然のように思える。
これを単純に見逃し対策や予約録画の手間削減と捉える人もいるが、それではこの行為に対する答えの半分以下しかない。全番組録画の本当の意味とは、テレビ番組に検索性をもたらすという作業なのである。
これまでテレビ放送は、放送した瞬間に空中に消えていくのである、ということを前提にしてきた。いやテレビ録画などはソニーがベータマックスを作った時代からとっくに始まっているのだが、それが繋ぎ止められると分かった瞬間、本来ならばそれに対応するビジネスモデルを構築すべきであった。それをこれまで、見て見ぬ振りを続けてきたのである。
今後テレビ局が行なうべきもっとも手っ取り早い転換は、放送中のみしか計測しない視聴率からの脱却である。テレビ番組そのものの価値をそこで判断するから方向性を間違うわけで、ネットにおけるページビューに相当する新しい指標を作るべきだ。
局やクライアントは、録画によるCM飛ばしを心配するが、SPIDERを使ってみて分かったのは、常時タイムシフトが当たり前になってくると、CMなどはいちいち飛ばさないということである。面倒というのとは違う。録画したものを見ているという意識がないために、早送りできることも忘れているのである。
現在デジタル放送を全チャンネル録画するには、いろいろハードルが高い。現行法下では各家庭内というローカルで実現する以外に方法がないが、効率を考えればどう考えてもネット上のサービスで実現した方がいいはずだ。しかし、テレビ局がそこまで決断するためには、もっと収支が壊滅的にダメになる必要があるだろう。さてそれは、今年起こるのだろうか。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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