初の3LCD Reflective機、エプソン「EH-R4000」が魅せた美しいスキントーン:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.52(2/2 ページ)
エプソンはこの秋、ついに高温ポリシリコンTFT液晶パネルを反射型へと進化させ、「EH-R4000」で100万:1のメガコントラストを実現した。肌色の再現と暗部階調の表現に徹底的にこだわったというR4000の画質をチェック。
マスターモニター調の「THX」、スキントーンの美しい「シネマ」
EH-R4000に採用された反射型パネルは、昨年のEH-TW4500で使われた透過型パネルと同じ0.74インチの垂直(無機)配向タイプ。透過型パネルとの主な違いは、下側の透過電極が入射光を反射するアルミ電極に変更されていること、透過型で必要なTFTを隠す遮光層がないことだけといっていい。遮光層がないということは、スクリーン上から格子状の黒い影が消えるということを意味する。
透過型と反射型を比べると、光の利用効率が高く明るさを稼ぎやすいのが透過型で、光漏れが少なくハイコントラストを達成しやすいのが反射型ということになるが、EH-R4000が見せる驚異的な漆黒の表現に大きく寄与したのが、EMP-TW2000で初採用された「ディープブラックテクノロジー」である。
液晶プロジェクターでは、ランプからの光は偏光フィルターを通して縦ゆれの光となって液晶パネルに送り込まれる。その際、さまざまな角度から入射される光に位相差(光の進み方のズレ)が生じて液晶透過後の光が楕円(だえん)状に偏光してしまう。それが光漏れの原因となってコントラストを損ねていたわけだ。そこにメスを入れたのが、ディープブラックテクノロジー。光の位相差を整えて楕円偏光を抑える補償回路である。この技術が今回の反射型パネルで生きた。構造上、透過型に比べて光の位相差を小さくできる反射型だが、そこにディープブラックテクノロジーを加えることで、ほぼ完璧に楕円偏光を抑えることができたというわけだ。
さて、本機に用意された映像モードでとくに注目したいのは『THX』と『シネマ』の2つだ。前者はルーカスフィルムを出身母体とするAV機器品質認証機関の「THXディスプレイ規格」に則って仕上げられたモード。2.2乗基準ガンマカーブと色温度6500ケルビン(D65)を厳格に順守した、マスターモニター調の画質である。
後者は、エプソン・オリジナルの映画観賞用画質モード。この『シネマ』モードでさまざまな映画ソフトをチェックしてみたが、その画質レベルは驚くほど高い。峻烈(しゅんれつ)な白と漆黒の闇をダイナミックに描きながら、暗部からハイライトにかけてホワイトバランスのトラッキングがじつに安定していて、スキントーンの美しさにはうっとりと見ほれてしまうほどだ。
それからもう1つ、映画BD「シャネル&ストラヴィンスキー」の暗い室内シーンのオープニング・シーンを見て驚いたのは、暗部階調の精密かつ繊細な描写。ペデスタルの黒を黒々と描きながら、暗部の情報を丁寧にすくい上げる、その確かな表現力に舌を巻いた。
同社画質担当エンジニアに話を聞くと、肌色の再現と暗部階調の表現に徹底的にこだわったという。平均輝度レベルがどんなに変化しても、常にスキントーンが安定するように肌色の軸を監視しながら、ホワイトバランスのトラッキングを合わせ込み、さまざまな映画ソフトを解析しながら、信号処理回路で扱う1024階調(10ビット)のうち20IRE以下にビットを多く割りつけ、2.2乗ガンマを基準に、トーンカーブを目視できめ細かく調整していったのだと。
画質とともに感心したのが、従来のエプソン製プロジェクターの凡庸なデザインと一線を画す、EH-R4000の流麗なフォルムだ。光学エンジンをL型に組み上げ、センターレンズ配置の奥行40センチ強のコンパクト・ボディを実現。流線型を描く滑らかなフォルムからは、高級プロジェクターならではの官能美が伝わってくる。マットなブラック・ボディにシルバーのレンズリングという組合せも絶妙。リングの周りに赤いラインが引かれているのもしゃれているし、21dBというファンノイズの静けさも驚異的だ。意匠面でも趣味性の高い高級機を買ったという満足感が得られる、素晴らしい仕上げだと思う。
従来の透過型プロジェクターとは隔絶した表現力を獲得したエプソンのEH-R4000。映画やオーディオビジュアルを趣味とするすべての人にぜひ一度じっくりと体験してほしいと思う。
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