実力が試される薄型テレビ(1)――超解像技術の超進化:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)
昨年11月のエコポイント半減前は、とにかく商品の確保が第一だったメーカー各社。しかし、この春はそれぞれに特長のある個性的な製品を相次いで発表している。春の新製品、そして今後のトレンドについて、AV評論家・麻倉怜士氏に解説してもらった。
そうですね。超解像の概念は必ずしも統一されていません。ソニーは、X-Realityの処理によって「ナイキスト周波数以上の高周波数成分が得られる」ことから“超解像”の定義に当てはまると判断したと話しています。私も、従来のアップコンバートに頼らない画素創造の手法で、かつ良好な結果が得られるものについては“超解像”と紹介して良いと考えています。
そもそも一番最初に“超解像的”な処理を行ったのは、ほかならぬソニーの「DRC」でしょう。1998年から2008年まで、同社のプラズマテレビや液晶テレビ、プロジェクターなどに採用されていました。東芝が再構成法の超解像技術を導入したのが2008年ですから、ソニーのほうが早いといってよいかもしれません。
DRCは、ハイビジョンテレビの「VEGA」でアップコンバートしたSD映像をきれいに映すために開発されたものでした。発明者は有名な近藤哲二郎さん。全産業でもっとも有用な特許の数が多い個人として知られています。今は、川崎でデジタル映像処理の研究所を運営しています。
DRCは、映像ソースをデータベースと照合して映像ごとに最適な処理を加えるという技術でした。当時からありました。当初のデータベースは256パターンで、私は「森羅万象の映像が、たった256パターンでまかなえるのか?」と開発者に糺した記憶があります。一方、最新のX-Reality PROでは数千というデータベースを持っています。
ソニーは、2009年の段階で一度DRCを外しました。当時の事業部長は、「コストが高いのに効果が薄い」と説明していて、私は“一体何を言っているのだろう”とあきれ、ソニーのものづくりの問題がここにもあると思いました。しかし研究所ではずっと開発を続けていて、今回復活させることに成功したのです。
しかも、従来は1枚だけの処理だったのを今回は複数枚処理にするなど、大きく進化しています。ソニーでは、良い絵をより良くする目的もありますが、ネット動画の画質向上も併せて狙っています。YouTubeの動画など解像度の低いものは、大画面テレビに拡大しただけではぼけてしまいますが、そのSNを良くする方法を考えたと言えます。ソニーの画質に対する思いやりや優れた提案性を感じました。ソニーらしい方向が少し見えたと思っています。
BRAVIAの従来機種の中では、直下型LEDバックライトを用いた「XR1シリーズ」の画質がすごく良かった(→“BRAVIA史上最高画質”「KDL-46XR1」で観る「ハンコック」の面白さ)。その後、これといった製品に出会えなかったのですが、今回の新製品は“踏ん張ったイメージ”。「ソニー=画質」というブランディングに、もう1度チャレンジしてほしいと思いました。
――X-Reality PROの効果は高かったようですね
ソニー、東芝の新製品をチェックしましたが、どちらもアップコンバート時のジャギーやノイズ感をずいぶん抑えていることが確認できました。これまで見落とされがちだった部分がよりクリアーになり、画像全体のすっきり感、破たんのない気持ちよさが出てきています。
超解像に関する話題でもう1つ。1月の「2011 International CES総括」で紹介した米DARBEEに動きがありました。
同社の技術は、1枚の2Dの画像を3D変換して超解像処理を行うことで、2Dでも3D的な精細感が出せるというものです。そのDARBEEが日本事務所を設立し、国内の大手メーカーに売り込みをかけています。すでに数社が採用を検討しているという情報もあり、今後の展開に期待が持てそうです。
東芝は時間軸方向の再構成法、ソニーは複数枚のリアリティークリエーション、そしてDARBEEは2D-3D変換超解像。細部をリッチにしてSNを良くするという目的は同じですが、手法そのものに個性があって、すごく面白いですね。一口に超解像といっても、切り口の異なる技術が登場してきました。
また、東芝は2011年中に4K2Kテレビを発売すると確約しています。「レグザエンジンCEVO」(シーボ)に超解像技術を取り込んだのも4K2Kへの道筋を作っていく意思の表れでしょう。4K2Kはフルハイビジョンの4倍もの画素を持っているため、アップコンバートは再び必須になります。現在のレグザエンジンCEVOはデュアルコアですので、4K2KになってもクアッドコアのデュアルCPU構成にすれば、きっと大丈夫でしょう(笑)。
――がんばってもらいましょう。後編では、映像のダイナミックレンジ拡大と3D表示の進歩について、解説していただきます。
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