明るさの余裕がもたらした、“BRAVIA”の3D画質改善:本田雅一のTV Style
前回予告したとおり、ソニーの新型“BRAVIA”の3D表示について紹介していこう。新製品の「HX920シリーズ」は明るめの部屋でも十分にパワフルでダイナミックな3D表現が楽しめるようになった。
前回予告したとおり、ソニーの新型“BRAVIA”の3D表示について紹介していこう。従来のBRAVIAが備えていた3D表示機能にはさまざまな問題を感じ、何度か記事でも指摘してきた。何しろ3Dの品位で言えば、今年春に発売された3D表示対応のVAIOの方がずっといい。VAIO方が後から発売された“後出しじゃんけん”だから、というのは当然としても、それにしてもテレビが本職のBRAVIAがPCに画質で負けるというのは、ちょっと情けない。
しかし、新製品の「HX920シリーズ」はこの点、大いに改善されている。直下型のローカルディミング対応パネルであることを生かし、短冊状に書き換え終えたところからバックライトを光らせることで、クロストークを減らしながらも発光時間を延長。さらに部分的に上から光らせることで、インバーター容量をいっぱいに使った高輝度でLEDを駆動することにより、さらに明るさを稼ぐことができる。このため、3Dメガネを通した場合でも、明るめの部屋でも十分にパワフルでダイナミックな3D表現が楽しめるようになった。
明るさの“余裕”は、当然ながら左右像のクロストーク(混濁)を削減させる要因にもなっているが、さらにオーバードライブ回路を用いた画素電極への印可電圧(駆動電極に加える電圧を指す)の制御をかけることで、左右像の切り替えにかかる時間を削減したという。
従来もクロストークをキャンセルさせる画像処理(クロストークが出ることを見込んであらかじめ打ち消す画像を含む信号処理を施す処理)が加えられていたが、HX920シリーズではオーバードライブ回路と同様の液晶ドライバー部にある印可電圧の制御回路を用い、3D表示専用の補正テーブルを用いて表示するようになった。
といっても、少々難しいかもしれない。簡単にいえば、左右像がすばやく切り替わり、目的の表示になるよう液晶を駆動するLSIの機能を最適化、液晶パネルの応答遅れに起因するクロストークを減らしたということだ。
以前、パナソニックが初めて発売した3D対応液晶テレビについて、従来あった液晶テレビの3D表示機能に比べ、圧倒的に優れていると書いた。本機のクロストークの少なさは、それと同等以上だ。
さらに3D液晶テレビにあった上下・左右それぞれの色ムラ(表示タイミングや画素配列などに起因するもの)が補正され、ユニフォミティー(画面全体のホワイトバランスの統一感)がきちんと取れている。正直言って、同じメーカーが作ったとは思えないほど、昨年に比べて進歩している。
2D画質の進歩は従来の試作段階から明らかで、その点でも関心はしていたが、3D表示品位の長足の進歩には正直驚いている。ただし、一点だけ気になることがある。それは頭が少しでも傾くとクロストークが増加する3Dメガネの構造だ。これは昨年モデルをそのまま引き継いでおり、軽量化された第二世代の3Dメガネでも同じ。
これは液晶パネル自身に接着されている偏光フィルム(液晶表示を行うために必要なもの)による縦偏光を利用し、メガネの偏光膜を省略するというもの。こうすることで、インバーターを使わない蛍光灯のチラつきを抑えることができる。最近は調光機能付きLED電球の人気が高まっているが、LEDでの調光は、明滅しながら間欠で光っているLEDの光っていない時間を調整しているため、やはり3Dメガネと干渉する場合がある。
とはいえ、ベストな状態で見ている(垂直に頭を固定した状態)だけに、ほんの少しでも傾けると質の劣化が如実に判ってしまう。偏光フィルターを後付けで装着するオプションを用意していない点も残念だ。
ソニーの3Dメガネと互換性のあるサードパーティー製のユニバーサルメガネを使えば解決できるが、現時点ではあまり安い買い物とは言えない。せっかくの3D画質の良さを生かせないというのはもったいない。ソニーは後付け偏光フィルターを装着した、同社製3Dプロジェクターに添付しているメガネも用意している。対応する術はあるのだから、顧客自身が選べるようにすべきだろう。
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