時代は変わってもノウハウは生きる、マランツ「NA-11S1」で聴くハイレゾ音源の“静寂”:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)
マランツの設立60周年記念モデルとして企画された「NA-11S1」は、ネットワークオーディオプレーヤーとUSB DACという2つの顔を持つ高級機。注目度も高い本機をじっくりと試聴した。
いちばん感心したのはUSB入力
各社高級AVセンターのネットワークオーディオ再生機能の音質向上が著しい現在、値段の安さで勝負といった感じの中途半端な専用ネットワークプレーヤーなんて要らないと個人的には考えるが(いっぽうでAVセンターは"トゥーマッチ・ファンクション"と思う方もいらっしゃるのだろう)、本機のクオリティー・レベルならば、専用プレーヤーとしての存在意義が十分にあると思う。どうせ買うならこのクラスの製品をぜひお勧めしたい。
同社が本機のために用意した操作アプリは「Marantz Remote App」。階層構造が複雑で、リンDSの純正アプリ「Kinsky」などに比べれば使い勝手がよいとはいえないが、以前の同社製ネットワークプレーヤー「NA7004」用の「Wizz App」に比べると、動作の俊敏さは圧倒的に改善されている。加えて空白のできないギャップレス再生が可能になり、ライブアルバムを聴く際の違和感がなくなった。これらはリンDSではデビュー時から実現できていたフィーチャーだが、これまでの国産ネットワークプレーヤーの純正アプリでは不可能だったのである。
では、本機のもう1つの顔であるUSB DAC機能について話を移そう。じつは、NA-11S1を使ってみて、いちばん感心したのはこの部分。PCと本機のUSB B端子をつないで聴いた音がすばらしくよかったのである。このUSB B端子入力は、192kHz/24bitまでのWAV、FLACファイルなどに加えて、昨今話題にのぼることが多いDSDファイルのネイティブ再生にもDoP(DSD over PCM)方式で対応している。
DoP方式というのは、PCM信号のデータ配列を利用して1bitのDSD信号を伝送するもので、SACDと同じ2.8MHz/1bitのDSDファイルの場合は、176.4kHz/24bitのPCMデータ配列を利用することになる。
ネットワーク再生時同様、USB入力時も低域から中低域が充実したピラミッド状の帯域バランスを訴求する音調だ。これまでの経験でいうと、DSDの音の特長は絹の肌触りを思わせる滑らかさにあり、PCMのそれは小気味よいキレのよさにあると思うが、再生機器の筐体(きょうたい)設計や電源回路が貧弱な場合、DSDの音の魅力は隠れてしまい、力感に乏しい地味な音という印象をもたれがちになる。それだけに本機の正統派の本格サウンドは、DSDファイルを聴くうえでも実に好ましいと思う。
また、音場感の豊かさやPCオーディオがこれまで苦手としてきた静寂の気韻やかそけき気配の再現がきわめて精妙な点にも感心した。本機のUSBインタフェースレシーバー部には、8素子18回路の本格的なデジタル・アイソレーターが搭載されているが、それがこのダイナミックレンジの広大な音に大きく貢献しているのだろう。
また本機には、同社製オリジナル・アルゴリズムによるオーバーサンプリング・デジタルフィルターが2種類用意されている。フィルター1は音楽をイキイキと聴かせるキレのよさが、フィルター2はナチュラルで滑らかな音調がその持味と聞いた。音楽ジャンルや好みで使い分けたい。
パッケージソフトからハイレゾ配信へ。この時代のすう勢は、リスニングルームでじっくり音楽と向き合いたいオーディオファンも無視することはできなくなったのは、もう間違いのない事実。本格ネットワークプレーヤー&USB DACという2つの顔を持つ本機は、そんな方たちにとってかけがえのない魅力を秘めた製品といっていいだろう。
関連キーワード
オーディオ | ネットワークプレーヤー | DSD | マランツ | USB DAC(USB Digital-to-Analog Converter) | PCオーディオ | SACD | 設計思想 | アイソレータ | DLNA | アレを観るならぜひコレで!
関連記事
- 「PCはノイズのかたまり」――マランツが考えるUSB DAC/ネットワークプレーヤーのあるべき姿、「NA-11S1」登場
マランツは、USB DAC/ネットワークプレーヤーのフラグシップモデル「NA-11S1」を発表した。昨年発売したSACDプレーヤー「SA-11S3」と共通のデザインながら、単体プレーヤーとは違う部分で苦労したという。 - PCオーディオ好きにも勧めたいユニバーサルプレーヤー、OPPO「BDP-105」
米OPPO Digitalの新しいユニバーサルBDプレーヤー「BDP-105」をぼくの部屋に迎え入れた。BDP-105には従来機「BDP-95」から新しいフィーチャーが加わり、その変身ぶりがまた興味深い。 - 琥珀色のパリを見事に描き出したJVC「DLA-X75R」の「フィルムモード」
JVCの4Kプロジェクター「DLA-X75R」は、フィルムの特性をシミュレートした多彩な「フィルムモード」を持つ。高精細化だけではない実力をウディ・アレン監督の映画BD「ミッドナイト・イン・パリ」でチェック。 - ハイレゾ音源からWOWOWまで、ヤマハの高級AVセンター「RX-A3020」を徹底活用
ヤマハの高級AVセンター「RX-A3020」を自室でじっくりハンドリングする機会を得た。ハイレゾ音源再生からBD、デジタル放送まで、用途の広いAVセンターならではの活用法を紹介していこう。 - もっと便利に“いい音”を楽しむネットワークオーディオ
前回は、USB DACを活用したシステムを紹介した。今回は前回予告した通り、より利便性の高いネットワークオーディオの魅力に迫ってみよう。 - そもそも“PCオーディオ”って何だろう?
盛り上がりを見せている“PCオーディオ”。ITmediaでも、ついに特集ページを開設するという。そこで今回は、そもそもPCオーディオとは何か――そのメリットと楽しみ方を基本から紹介していこう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.