アキュフェーズの40年を詰め込んだ純A級アンプ「E-600」:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
「E-600」は、アキュフェーズが創立40周年を記念して、昨年11月に送り出したプリメインアンプの最上位モデルである。設立時の理念を頑なに守り続けている同社だが、このモデルは若い世代のオーディオ・ファンにも手を差し伸べる。
E-600は、どんな楽曲でも期待を裏切らない表現力で応えてくれるが、試聴には最近よく聴くアラスカ出身のシンガー・ソングライター、ヘイリー・ロレンの2作目のアルバム「アフター・ダーク」から「ビヨンド・ザ・シー」を使ってみた。この曲はボビー・ダーリンのヒット曲だが、ジョン・シープとのデュエットで、ヘイリーはこれを見事にカヴァーしている。アルバムのクレジットを見るとプロデュースからミックスにまで彼女の名前があるように、レコーディングにもかなりこだわっているようだ。
ヘイリーの曲を選んだのには、もう1つ理由があった。それは最近ぼくがオーディオビジュアルのイベントをおこなう際、SFX映画の「オブリビオン」を使うことが多いが、その中でトム・クルーズ扮するジャックが彼の隠れ家でジュリアと過ごすシーンに、プロコールハルムのデビュー曲でもある「青い影」が劇中歌で使われていたからだ。彼女は2010年にリリースしたアルバム「ゼイ・オウタ・ライト・ア・ソング」の中でこの曲を取り上げた。元々はロックの名曲だがジャージーなアレンジが一味違う「青い影」を聴かせてくれた。そんなこともあって、「ビヨンド・ザ・シー」を聴いてみたくなったのだ。
E-600は、そうした心持を知ってかどうか、ニュアンスの豊かなボーカルを聴かせる。ヘイリーのちょっとハスキーな声だけでなく、ジョン・シープの男声も見事に捉える。2人の定位も揺るぎないし温かみがある。E-600はA級動作だから品位が高いというつもりはない。AB級にも優れたアンプはいっぱいあるし、A級だって残念な製品もある。ところがE-600はそうした方式論争を吹き飛ばす。要はそのメリットをいかに引き出し結果に反映させるかである。
背面の拡張スロットにオプションボードを追加して機能を拡張できる。外側の「DAC-40」はUSBと同軸、光入力を持つデジタル入力ボード。PCとUSB接続した場合は最大192kHz/24bitのハイレゾPCM音源再生が可能になる
プロの世界では音質より信頼性を重視する傾向があるが、E-600はいずれの要素を持ち合わせている点にも感心させられる。またこのモデルは若い世代のオーディオ・ファンにも手を差し伸べる。音質を重視した専用のヘッドフォン・アンプを内蔵しているほか、オプション・ボードの増設でアナログレコード用のイコライザーを装備できるし、USBや同軸端子で192kHz/24bitのデジタル信号まで受け付け、ハイレゾ音源やネットワークオーディオにも対応する。68万円というプライスは高価だが、この内容ならけっして高くはない。そしてこうした良心こそアキュフェーズの製品が多くのファンから支持を得ている理由でもある。
彼らには変えないことで守り続けてきたもがある。その1つがデザインであり、もう一つが信頼感だ。一目見てアキュフェーズの製品と分かるアイデンティティ。いまだかって創業時の製品もできる限り修理を受け付けるという物を大切にする心。こんな会社が日本にあることをぼくは誇りに思う。
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