世界が注視する日本の4K――「miptv」リポート(前編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)
仏カンヌで開催された国際的な番組トレードショー「miptv」では、4Kコンテンツ制作に関するいくつかの興味深い動きがあった。オーディオ・ビジュアル評論家・麻倉怜士氏の現地リポートをお届けしよう。
麻倉氏: スカパーJSATのサッカーも実に面白いです。実はこれらコンテンツ制作者の中ではスカパーJSATだけが現地で講演を行い、撮影時の注意点などを披露しました。そこで話していたのは、HDではアップにすると全体が見えなくなるが、4Kでは全体を撮しても(引き)、ある程度は選手の表情が分かるということ。またゴールネットの後ろから撮影するカメラポジションはこれまでゴールシーンを中心に使われていましたが、4Kでは選手の表情や心の動きがよく分かるため、より幅広く使えるそうです。「4Kならではのカメラポジションを開発した」と話していました。
また、これまでは実験的なサッカー中継だけでしたが、今後はサイマル放送にトライしたいとも言っていました。つまり4K撮影して4KとHDの両方で放送するわけです。しかし、そうなると4Kならではのカメラポジションでいいのか? という悩みも今後は出てくるでしょうね。
編集システムまで作ったNHK
麻倉氏: もう1つ。どのように4Kを作成するか、制作側の考える展開がさまざまなところで見えてきました。熱心に取り組んでいるNHKは、4日間続いたパネルディスカッションにも連日出席し、コンテンツ制作の作戦を語りました。NHKは既に、科学ドキュメンタリーや時代劇、自然科学ものなど多くの4Kコンテンツを作成すると国内の記者会見ではすでに明らかにしていますが、それを今回のmiptvで海外にもアピールしたのです。
――8Kではなく、4Kですか?
麻倉氏: NHKの本命はあくまで8Kです。しかし2Kから8Kへのステップは大きすぎると判断し、その前に1ステップ置くことを決めたということでしょう。もう1つはコンテンツ販売の可能性です。NHKのコンテンツは、NHKエンタープライズを通じて世界に流通しているので、世界に先駆けてコンテンツを制作して世界展開を図ります。
1つ感心したのは、編集システムまで自前で作ったことです。NHKエンタープライズが開発した「MASAMUNE」(まさむね)は、RAWデータをさまざまな形式に変換するトランスコーダーを中心としたシステムで、2Kと4K、4K RAWデータの間を自由に行き来できます。
――4K RAWデータはとても重いのではないですか?
麻倉氏: そうです。しかし、4KカメラはRAW出力なら16bit撮影まで可能ですから、後でカラーグレーディングなどを行う際に自由度が高いというメリットがあります。MASAMUNEでは、編集作業は2Kで行い、その編集データをもとにRAWデータから4K映像を出力するシステムを作りました。
既に「グレートバリアリーフ」や「脅威の人体」などのコンテンツをMASAMUNEで編集しています。例えばグレートバリアリーフの珊瑚礁の映像は撮影時に光量が足りず大変だったのですが、RAWデータからカラーグレーディングを行えたため、色再現や階調再現は2Kに比べて楽だったそうです。
――ところで、なぜ「MASAMUNE」なのでしょう?
麻倉氏: 開発担当者が伊達さんだったからです。
NHKでは、今後もMASAMUNE使って多くのコンテンツを制作すると話していました。例えば国際宇宙ステーションで若田宇宙飛行士が撮影した4K映像、京都の俵屋という名旅館のドキュメンタリー、鍛冶職人のドキュメンタリー、京都御所の四季など、さまざまな4Kコンテンツが出てくる予定です。
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