レッドブル、4Kテレビに翼をさずける?――「miptv」リポート(後編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)
試験放送のアナウンスで注目を集めている4K。しかし4Kコンテンツの制作は、日本人の知らない場所でも徐々に進行していた。前編に続き、オーディオ・ビジュアル評論家・麻倉怜士氏が仏カンヌで開催された「mip tv」をリポート。えっ、あの会社も?
麻倉氏: フランスのトゥールーズに本拠を置くLadies First Distribution(レディファースト)というプロダクションは、女性向けの4Kコンテンツ制作に乗り出しました。もともと料理番組やヘルスケアといった分野を扱っていたプロダクションで、4Kではロサンゼルスのサーフィンインストラクターやヨガにスポットを当てた、いわゆるライフスタイル番組を作成しています。マーケティング担当者のスザンヌ・ネメスさんは、「4Kといえばサッカーばかり。女性向けコンテンツが少なすぎる」と話していました。確かにその通りですね。でもなぜ放送もないのに4Kを制作するのですかと尋ねたら、「FUTURE PROOF」と一言。これから4K時代になるのが必至なのだから、今からアーカイブしておこうという魂胆です。
一方、4KではCG合成に労力がかかるということも分かりました。今回、オンサイトという英国のプロダクションが「大英博物館」という作品を出していました。夜になると展示されている動物たちが動き出すという内容ですが、「CGの主役(例えば恐竜)は4Kで作成してもダメ」だそうです。これは、4Kで撮影された高精細の背景にCGを貼り付けた場合、CGは8Kや10K、あるいは12Kくらいの解像度を持っていないと“本物の感じ”がしないからです。同じことはNHKも「人体」のCG制作で言っていました。
このほか、ロシアからも4Kコンテンツが出てきました。ロシアのNPDプロダクションは、2月に行われたソチ五輪の開会式をソニーの4Kカメラ「CineAlta F55」で撮影しました。カメラが1台しかなかったため、あまり凝ったことはできなかったようですが、4Kが地域的にも広がりを持ち始めたことを示す例だと思います。
最後にもう1つ。画質面でとても印象的な話がありました。BBCが行った「I reserve better pixels not just more pixels」という講演です。このタイトルは「4Kは画素を増やすだけでなく、より良い画素(画質)にするべき」と言っています。講演では重要な要素として、ダイナミックレンジ、色再現性、よりよいオーディオ、適切なフレームレート、解像力の5つを挙げていました。私は、「解像力」をあえて最後にしたことが、とても示唆的でだったと思います。つまり4Kは単に画素を増やしただけのフォーマットではないとハッキリと言ったわけですから。なぜ解像度は重要でないか。「離れてみたら、解像度の高さなど分からなくなるからだ」と素晴らしくも明晰(めいせき)なお答えでした。
日本でもテレビメーカー各社から、色域を拡大したり、HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)の機能を取り入れるなど、単に解像度を上げただけではない4Kテレビが登場しています。BBCの講演は、4K画質の根本を定義するものではないでしょうか。
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