変えようとして変わらなかった奇跡の羽根――バルミューダ「GreenFan Japan」の真の価値:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(4/4 ページ)
バルミューダの扇風機「GreenFan」シリーズは、3万円以上という価格にも関わらずヒットを続けている。なぜ世の中に受け入れられたのか? その最新モデル「GreenFan Japan」のスゴイ技術とは? バルミューダの寺尾玄社長を直撃した。
塗装をマット(ツヤなし)にしたことも特長の1つだ。パッと見、前モデル「GreenFan2」と変わらないのでは? と思っていた人も、実際に比較してみると雰囲気に大きな違いがあることが分かる。
「GreenFan Japanではマットな塗装で硬質感のある雰囲気にガラッと変更しました。プロダクト全体を覆うプラスチック特有の軽薄さみたいなものを消し、あえて硬質な印象に振ったのは、同じ“心地良い自然の風”なら、より真面目な雰囲気のものから吹いてきたほうが、より快適に感じられるのでは? という考えです。もし、プロダクト全体が金属で覆われていたら、ここまで硬質な印象の塗装で仕上げる必要はありませんでした」。
このように隅々にまで心を配り、“心地良い自然の風”を追求しているのが、バルミューダの扇風機「GreenFan Japan」だが、これほどまでにモノ作りを追求するのはなぜか? 最後に寺尾氏にモノ作りへの思想や価値観をあらためて聞いてみた。
「家電というのは電気を使った道具であり、あらゆる道具のなかでは、どちらかというと歴史が浅いもの。だから、洗練されていない点も多く、人の暮らしに対して適合していないものも多いと思ってます。道具を作る際には、人がどこでベネフィットを感じるか、そのポイントを考えることが重要でしょう。扇風機なら、風を受けた人が涼しいと感じた瞬間こそがベネフィットポイントなのです。技術はそのためにあり、われわれが作り出す“心地良い自然の風”が重要なのではなく、人が涼しいと感じてくれることが重要なのです」。
メーカーとしては、このベネフィットを最高レベルにまで高めたい。そのためには技術もデザインも、「死ぬほど追い込まないとダメ」(寺尾氏)という。「GreenFan Japan」の場合、パーツデザインまで合算すると2000以上の案(デザインアイデア)が出され、その中から最適な組み合わせを検討したという。つまり、採用されなかった案も無数にあった。それらの失敗作があってはじめて、製品化された『GreenFan Japan』が存在するわけだ。
どうしてそこまで追求するのか? 答えはシンプルで、「追求するとやはり製品は良くなるから」という。「実は、『GreenFan Japan』の風を、より遠くに広く届けるにあたり、まだまだ解明されていない事象があります。でも遠くに広く届くという事実は間違いないので、そこについては解明されなくてもいいと思っています。なぜなら、われわれは研究者ではなくメーカーですから。それがどうしてなのかは二の次として、ベネフィットがあるのは事実なので、それでいいと思います」。
また、今回カーデザイナーの和田氏が参加したことで、気持ちの変化も多かったという。「自分たちの価値観や存在意義みたいなものが、より明確になりました。これまでは、『誰もが驚くような新しいものを』とか、革新的なアイテムを作るという意識が強く働いていましたが、和田さんからは必ずしも新しいものがいいとは限らず、『自然であるものには敵わない』『新しいものはその瞬間から古くなるけど、美しいものは100年経っても美しい』といったことも教わりました。メーカーとしては、この価値観を持って、あらゆるものを作れれば、きっとどんなジャンルのアイテムでもいいものが作れると考えています」。
バルミューダは、新製品の『GreenFan Japan』を出したことで、ひとまず扇風機は完成したと考えている。「この製品は、長い期間、大切に売って行こうと考えています。その一方、すでに次のことも考えています。白物家電には、扇風機同様、“いいものがない”というジャンルがまだまだたくさんあります。それらを1つずつ、バルミューダが変えて行きます」(寺尾氏)。
「GreenFan Japan」試用インプレッション
普段「GreenFan mini」を使用している筆者が実際に新製品の「GreenFan Japan」を体験した。電源を入れると、一瞬のタイムラグの後、ふわっとした空気のベールが体全体を包み込むような印象だ。気持ちの良い涼しさをと同時に、その空気は柔らかいからか、数時間浴び続けても冷え過ぎるといった印象はない。その風を受けていることを忘れ、眠ってしまうほど快適だった。
「GreenFan mini」よりも羽根の径が大きい分、より体全体で包み込まれるようなイメージだ。また150度という広範囲に風を送るため、家族で過ごすリビングなどでも無理なく使えた。
オプションの専用バッテリーとドックも便利だ。バッテリーパックを本体のベース部裏側にセットすると、コードレス扇風機として利用できる。例えば充電ドックを寝室に常設しておけば、夜間はそこで充電しながら、寝ている間の涼しさをキープ。そして昼間はリビングに本体を持ち出し、コードレスで使える。バッテリー駆動時間は最大20時間。充電はドックの上に本体を置くだけでスタートするため、アダプターの線を抜き差しする手間もいらない。
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