ホームシアターの革命、Dolby Atmosの衝撃(後編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)
後編では、AVアンプメーカー4社のドルビーアトモス対応モデルに加え、「ドルビー・イネーブルド・スピーカー」や「アップミックス」といった周辺技術のインプレッションをお届けしよう。
デノン
麻倉氏: デノンブースは9.1.4の構成でした。以前、デノン本社のリスニングルームでも体験したのですが、そのとき天井スピーカーはスクリーンの上に2つ、リアスピーカーの上に2つの合計4つが設置されていました。つまり、従来のフロントハイトスピーカーをそのまま流用していたのですが、それもドルビーのスペック要件では許容されています。
今回のデノンのシステムはそうではなく、標準的な下向きの天井スピーカーでした。音場の再現性は標準的でしたが、“部屋の大きさ”を感じられる点が印象的でした。例えば鳥が円形に回る鳥が、スクリーンサイズよりも大きく回っているように感じられるのです。
もう1つ、「アップミックス」のデモも用意していました。アップミックスというのは、従来のドルビーTrueHDソースのBDで、ドルビーアトモスのスピーカー配置に合わせた処理を行い、天井スピーカーも使って再現する再生モードです。ドルビーアトモス対応コンテンツがなくてもそれなりに楽しめるわけです。
確かにオリジナルのドルビーアトモス対応タイトルに比べると上空の定位感は少し“あやふや”ですが、天井スピーカーがないケースと比較するとまったく違います。デモに使用したのはアニメ映画「スカイクロラ」のBDでしたが、例えば後ろから前に飛行機が通過しながら離陸していくシーンで、音の軌跡がはっきりと輪郭を持って感じられました。作品にもよると思いますが、これは効果が高いと思います。
パイオニア
麻倉氏: 最後はパイオニアです。実に緻密(ちみつ)な音場で、下のスピーカーがしっかりと鳴り、天井スピーカーも同調して働いている印象。地面から音が立ち上がり、その雰囲気を残しながら、頭上を音が舞う感じを得られました。とくにパイオニアの独自技術である「フルバンド・フェイズコントロール」をオンにすると、さらに濃密な音像になり、しかもスピーカーの存在を感じなくなります。スピーカーのない場所からも音が聞こえるのです。長年パイオニアが開発してきた技術は、今回のドルビーアトモスではたいへん効果が出ていると感じました。
もう1つはアライメント。今回はフロントスピーカーに特性を合わせる“フロントアライン”でしたが、そうすると見事に音の解像感が上がりました。パイオニアは以前からサラウンドにおいては部屋との関係やスピーカー間の協調性といった点が重要であると言い続けてきました。これまで、そのありがたみを感じる機会は少なかったのですが、ドルビーアトモスではこれまでの地道な努力が一気に花開いた印象です。
――最後にドルビーアトモスの登場した意義についてお願いします
麻倉氏: 映画における音の表現で、ここまで精密に制作者の意図に迫ることができる技術はこれまで存在しませんでした。クリエーターにとって、自分の思いを100%以上込められるシステムであり、ユーザーにとっては家庭内でも、劇場そのものではありませんが、そのエッセンスを十分に体験できます。映像だけでなく、音声からもクリエーターの意図が伝わってくるわけです。これはやはり大きな革命ではないでしょうか。
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