2人のキーマンが語るフラッグシップ――パイオニア「SE-MASTER1」開発秘話:春のヘッドフォン祭2015(2/2 ページ)
パイオニアブランドから登場したフラッグシップヘッドフォン「SE-MASTER1」。その担当エンジニアとオーディオ評論家の野村ケンジ氏が開発秘話を披露した。
たった1人のマイスターが支えるフラッグシップ
数々のこだわりを支えたのは、山形県天童市の東北パイオニアだ。ハイエンドカーナビ「カロッツェリア X」やオーディオブランド「TAD」の生産も行うファクトリーで「SE-MASTER1」の開発と生産は行われた。生産は天童に在籍する熟練の技術者の中でも、わずか1人の選ばれたマイスターが全て組み上げている。
開発現場を見つめ続けた野村氏は、天童工場の重要性を指摘する。「組み上げるにあたっては、100分の1ミリ単位という恐ろしく厳しい誤差精度を要求していますよね。これはやはり天童の技術力があればこそですよ。実はこれ、全ての組み立てを1人で作っている様子を見学させていただいたんですけれど、TADのレベルを平然と要求するんですよね。細かい作業を平然とするんです。でも、それを強いた企画者も企画者ですよ(笑)。パイオニアは中国などにも工場を持っていますが、これは東北の天童工場でしかできないですね」(野村氏)。
瑤寺氏も「カロッツェリアXやTAD PRO Monitorなどのすぐ横で生産されています。少しでも軽くしたいので、眼に見えないような量の接着剤を、マイスターの手先の感覚を頼りに塗布していたりします。真似しようったってそう簡単にはできないです」とうなずいた。
オーディオ的な楽しみが詰まったヘッドフォン
利用にあたって、野村氏はいくつかのアドバイスを提示した。野村氏の印象では、出力段よりもDACや入力段での実力が問われるという。ケーブルの接続はMMCXで、リケーブルによる音の変化も楽しめるが、野村氏の実験によると、サエクコマースが発売しているShureのSRH1840/1540用モデルはだいたい使えるが、ジャック部が細くないと物理的に干渉してしまうという。「パイオニアのヘッドフォンアンプ『U05』で試した場合、ケーブルにこだわってロックレンチアジャストを2以下にするといい音になりました。ORBは実際試してはいないですが、JADE1やJADE2なんかが合いそうです」(野村氏)。
製品的なキャラクターとしては「かなり遊べるヘッドフォン」だと野村氏は話す。瑤寺氏は「個性を消す方向で調整をしました」と話しているが、野村氏によると高いポテンシャルと相まって、ユーザーの好きな方向に音を追い込むことが可能であるという。「インピーダンス特性は意外と優しいので、AKシリーズなどのハイエンドプレイヤー直刺しやポタアンでも意外と鳴ります。ですがあまりに懐が深くシステム全部の音があからさまに鳴るため、アンプの音、プレイヤーの音が露骨に出てきます。機材の弱点もモロバレなので、場合によってはシステムの見直しまで出てくるかもしれません。音を追い込むのには根気がいるかもしれませんが、そういった意味では正に“リファレンス”でしょう」(野村氏)。
野村氏は、「SE-MASTER1」を「既存の大メーカー製ヘッドフォンとは全くコンセプトが異なる製品」と評価。「パイオニアだからできた製品だと感じます。日本のメーカーが真面目に作ったハイエンドを、いちオーディオファンとして素直に喜びたいですね」(野村氏)。
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