上位機に迫る機能を持った新エントリー! Astell&Kern「AK70」を徹底解剖:ハイレゾ入門機(4/4 ページ)
Astell&Kernのハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーに、新製品「AK70」が加わる。イヤフォンのバランス接続に対応するなど上位機に迫るスペックを実現しつつ、珍しいボディーカラーを採用するなど、さまざまな意味で注目のモデルだ。さっそくチェックした。
音質は大幅に向上、バランス接続のサウンドも聴いてみた
続いてAK Jrと比べながらAK70の音を聴こう。リファレンスのイヤフォンはソニーの「XBA-Z5」を使っている。
AK70で大きく変わったのは中低域のキャラクターだと思う。AK Jrのゆったりとした雰囲気も良かったが、曲によってはもっと切れ味がほしいと感じることもあった。AK70が再現する中低域はアタックが鋭く、クリアで見晴らしが良い。ストレートに言って、AK Jrよりもぐんと音質が向上した手応えを感じた。
アップテンポなロックやダンスミュージックにピタリとはまる。ボーカルも抜けが良くなった。AK Jrではソフトな印象だったハイトーンも、シャープで透明感がアップしている。音楽が演奏されている情景が、よりリアルに思い描ける。aikoの「もっと」では、声の輪郭がすっきりとして、ビブラートの細かいひだがよく見える。ボーカルの音像は解像感がぐんと高まった。声のテクスチャーは凹凸もリアルだ。S/Nがよく、パワーも十分。マイケル・ジャクソンの「Off The Wall」では、エレクトリックベースの低域がグンと伸びてくる。指で弦を弾くプレーヤーのイメージが目に浮かんでくるようだ。
AK70でクラシックのオーケストラを聴くと、楽器の定位感がより鮮明になり、奥行き方向の距離感も広がったことを実感できる。ミロシュ・カルダグリッチが弾く「アランフェス交響曲」を聴き比べてみると、AK Jrではギターのふくよかな音が魅力的だったが、一方で弱音の輪郭がややぼやける傾向も見られた。AK70では全体の解像感が上がって、ギターのカラッとした響きが楽しめる。リズムの躍動感が驚くほど豊かになった。金管楽器も一段と晴れやかで明るく好印象だ。
イヤフォンケーブルをサエクの「SHC-B120FS」に交換して、バランス接続の音も聴いてみよう。ボーカルの定位がさらに引き締まり、より多くの情報量が引き出される。ボーカルに疾走感が加わり、余韻の爽やかさも際立つ。上原ひろみのアルバム「SPARK」から『Wonderland』では、アタックの強弱にますますメリハリが付いて、演奏者が音に込めた感情までもが伝わってくる。フォルテッシモからピアニッシモへのグラデーションがよりきめ細かく出ている。高域には自然なきらめき感が宿る。そのメリットは豪快なアメリカンロックを聴くとなおさらハッキリと現れた。エアロスミスのアルバム「Permanent Vacation」から『DUDE(LOOKS LIKE A LADY)』では底抜けに明るいエレキのツヤが引き立ち、6弦目のファットな低音の弾力感が何とも心地よい。
新しく搭載されたUSBオーディオ機能も試してみよう。用意したアンプはChord Electronicsの「Mojo」。USBオーディオ機器との接続にはUSB OTGケーブルが必要になるが、Astell&Kernの製品を取り扱うアユートでは、AK70とmicroUSB端子を採用するUSB-DAC内蔵ポタアンとの接続に最適な短尺のUSB OTGケーブルをアクセサリーとして発売する予定だ。今回はそのサンプルを借りてテストした。
USBオーディオ機器をケーブルにつないでから、AK70の画面の上部を下に向かってスワイプすると表示されるメニューリストに、新しくUSB端子のようなアイコンが加わっている。こちらのアイコンをタップすると、色が黒く変わってUSBオーディオ機能がオンになる。あるいは設定メニューに移動して、一覧からUSBオーディオを選んでもいい。DSD再生はDoPとリニアPCM変換を設けている。「Mojo」の特徴であるライブ感を豊富に含んだサウンドが余すところなく放出される。サイズもAK70にぴたりと合うので、AK70の専用ケースを装着して「Mojo」と背中合わせにバンドなどで固定すればルックスもきれいに収まりそうだ。なおオーディオテクニカの「AT-PHA100」にも、USB OTG変換ケーブルを介してUSB接続してもUSBオーディオのサウンドが楽しめた。それぞれのアンプの特徴を、混じり気なく素直に引き出せるプレーヤーだ。
AK Jrが、Astell&Kernのハイレゾプレーヤーのコンセプトを広く伝えることにおいて果たしてきた功績は大きい。でも一方で上位モデルと比べてしまうと、音質や使い勝手の面で如何ともしがたい差ががあった。AK70では音質を最新のトレンドに合わせてチューニングしながら、「AK380」をはじめとする上位クラスのモデルで好評だった機能も惜しみなく加え、そのギャップをしっかりと埋めてきた確かな手応えが感じられる。音楽リスニングはスマホで十分という方にとって、約7万円という価格はまだまだハードルが高いものに感じられるかもしれないが、USB-DACとしても使えたり、バランス接続も含めた将来的な発展性を考慮すれば、いまハイレゾを存分に楽しむための機能を幅広くカバーした“お買い得なプレーヤー”と受け止めていいだろう。
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