2016年はDACの当たり年! 麻倉怜士の「デジタルトップ10」(前編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)
年に1度の総決算、「デジタルトップ10」の季節が今年もやってきた。オーディオもビジュアルもさまざまな展開を見せた2016年だが、麻倉怜士氏にとって今年はDACが豊作だったようだ。前編では第10位から第6位までをお届けしよう。
7位:exaSound「e32」DAC
麻倉氏:どんどんいきましょう、第7位はexaSoundの最新DAC「e32」です。第9位のADI-2 proでもチラリと話に出しましたが、私は今まで同社のe22 DACを使っていました。実はこれ、初めて聴いた2年前に「こんなにクリアで生々しい音が出るDACはない!」と衝動買いをしてしまったんです。
当時はDSD 11.2MHzが出たばかりで、それに合わせる物を探していたのですが、その時に見つけたのがコレでした。で、よくよく聴いてみると電源がイマイチなため、オーディオデザインの電源を加えたという顛末は先ほど話した通りです。今回はそんなe22の最新モデルチェンジ版。見た目はそう変わりませんが、出てくる音は本当に違い、これまでにも増して“さらにさらに”突き抜ける音の良さを得られたということにビックリしました。
――対応フォーマットや数値的なスペックなど、大まかな性能自体はあまり変化がないようですが、具体的にどこがどう変わったんでしょうか?
麻倉氏:大きな変更点としてはやはりDACチップが最新世代のものに変更されたことでしょう。e22はESSの「ES9018S」だったが、それが最新世代の「ES9028PRO」にアップデートされています。これまでハイエンドDACは、例えばアキュフェーズのように1チャンネルにたくさんのESS DACを多段パラレル構成して、音のクオリティー向上を狙ってきた例がありますが、それをみていたESSは「それなら最初からワンチップにいっぱいDACを突っ込んでおいたほうが良いんじゃね?」と。このマルチコア化がとても効き、e22は元々音情報が多く「これほど多くの音が再現できるDACも珍しい」と感じていたのですが、今回はさらに音情報が増え、加えて音楽情報が増しています。音の粒子が細密になって数が増え、より高密度に凝集した感じです。単に粒子が細かくなったという物理的な向上にとどまらず、より音のビビットさというか、音楽の心地よさというか、そういった音楽的な粒子感と情報的な粒子感が1つおきに並んでいるというのが私のイメージです。
試聴をした際の私のリファレンスメモは次の通りです。
リファレンスに用いている情家みえさんの「Fly me to the Moon」では、元々オリジナルの音場に情報として入っていたピアノ独奏の空気成分がさらに豊かに発音するようになり、空気そのものが浄化され清らかになっていく。その清涼なアンビエントの中で、ピアノのアクションやヴォーカルのニュアンスの細やかさの感情変化がより心地よく再現されていると感じた。
2016年にヤンソンスが振ったウィーンフィルのニューイヤーコンサートでは、キラキラと煌く音の粒子感がムジークフェラインザールのあちこちで反射して瞬速な響きとなり、聴き手に向かって芳醇な空気感を聴かせている。
――今まで量子化によって抜け落ちていたモノを丁寧にすくい上げることで、音楽自体も濃密になるイメージですね。逆にいうと、今まではこんなに沢山の情報を捨てていたのかということでもあるのですが……
麻倉氏:前回に続き今回もオーディオデザインの電源が付属するセットが用意されています。インプレッションはこのセットのものですが、やはり電源で大化けする事は間違いありません。どちらが主役かという気もしなくはないですが、あらゆるDACを音楽的にする魔法の電源として、これも高く評価したいです。
――中編は番外編その1と、第6位から第4位までをお届けします。引き続きお楽しみに!
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