第8話 リーダーには“○○深さ”が大切Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(2/3 ページ)

» 2008年10月15日 19時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

美咲 “師匠”って誰のことですか?

 ええと、ジェイネックスの星野さんのことです。僕が勝手にそう呼んでるだけですが……。今度の特集でも取材されるって、浜崎さん言ってましたよね。

浜崎 ごめんなさい、そのことはまだ後藤さんに話してませんでした。星野さんは、ジェイネックスという経営コンサルティング会社のコンサルタントの方なんです。私たちのプロジェクトも含めて、アイティ食品グループ全体の業務改善を指導されていて、今回の作業時間短縮の知恵も星野さんが教えてくださったんですよね。

美咲 そうなんですか。中村さんが師匠と仰ぐからには、よほど素晴らしい方なんでしょうね。

 ええ。自分の目指すロールモデル※っていうか、結構憧れちゃうところがあるんですよ。だから、今は僕も社内コンサルタントを目指して修行中の身です。

※ロールモデル……ある仕事や役割などで規範となる人物のこと。

美咲 じゃあ中村さんは、将来コンサルタントになりたいんですか?

 いやあ、別にそこまでは考えなかったけど。このプロジェクトがうまくいったら自分の能力を認めてもらえるのかなあ。でも僕はこの会社と製品が好きだから、そんなすぐに転職したりしませんよ。

美咲 私も浜松工場にいましたけど、お客様が見学に来られると「職場が衛生的で明るい雰囲気だね」って、よく褒めてくださるんです。それが嬉しくて。「自分たちの職場は、自慢できるほど素敵なんだ」ということをもっと社内に広く伝えたくて、広報誌の部署に異動希望を出したんです。たまたま前任の方が退社されるタイミングだったみたいで、希望がかないました。……あれ? ごめんなさい。いきなり自分の話になってしまって。

 後藤さんは、会社の仲間思いなんですね。こんなに若いのに偉いなあ。

美咲 私、社内でがんばっている皆さんを応援したいんです。だから、中村さんも簡単にリーダー役を投げ出したりしないでくださいね。

浜崎 中村リーダーはこう見えても粘り強いから、たぶん大丈夫よ。

 なんで浜崎さんが僕の代わりに答えるんですか? それに取材のテーマは“時間の使い方”でしょう。

美咲 そうでしたね。じゃ、話を戻して、プロジェクトではどういう点を考えて仕切っているのですか?

 師匠の受け売りではありますが、やはりメンバーが使う時間を効率的に割り振ることだと思います。これをプロジェクトで実現するには、「準備の時間を作って、実行段階では手戻りが起きないようにする」、「作業計画では最も効率的な手法を探す」、「できるだけチーム討議時に決めてしまう」といったことを心掛けています。実際、上手に振り分けないと時間がいくらあっても足りませんから。

 こんな調子で予定時間の30分はあっという間に終わってしまい、話の続きは日を改めてすることになった。結局インタビュー時間はうまく仕切りきれずに終わった誠だったが、1人になってふと、美咲とのやりとりを思い出していた。

 僕より若いのにすごくしっかりしてたよな。会社思いだし……名前、後藤美咲さんっていってたよな。かわいかったなあ。ショートカットで目が大きくて、そういえば僕の好みのど真ん中だ……なんて、今そんなこと考えてる場合じゃなかった! 明日からの消費者調査のパネル準備を終わらせないと、実施に間に合わないぞ。

 誠は遅めの昼食をあわただしくかきこんで、明日の準備に没頭した。パネル準備のめどがついた夕方過ぎ、美咲からメールが届いた。

美咲メール 中村さん、先ほどはありがとうございました。そういえば、中村さんの師匠の星野さんには来週お話を伺うアポがとれました。ちょうど中村さんの再インタビューの前日なので、どんなお話だったかお聞かせできると思います。次回は私1人でお話を聞きに伺うので、またよろしくお願いしますね。では、お疲れ様でした。 後藤美咲♪

 今度は彼女と2人きりで話すのか。やっべえ、緊張しちゃいそうだなぁ……楽しみだけど。でも、師匠の話も聞けそうだし、ちゃんと時間を作れるように今からやりくりしておかなきゃ。

 誠はスケジュール管理ソフトを立ち上げると、いそいそとインタビュー用の時間を確保した。

 そういえば、あのとき話がそれちゃったけど“師匠が提示した要件”って結局何だったんだろう。まあ、その話も来週聞けるかな。

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