山口 先日の分析結果で気になるのは、「包装容器は紙パック」に有意差※があるのは分かるんですが、男性と女性で意見が異なることと販売単位との組み合わせがありそうだということです(参照記事)。この点は、我々販売部にとっても影響が大きいことですから。
仲居 なんかさ、販路とか包装とか見かけのことばかりで、どうして味や中身の意見が有力にならないのかな。
坂口 開発部の主任が言うには、パネル分析だと試飲できないからピンとこないんだそうですよ。誠、やはり最終的には試作品を使ったモニター評価が必要だぞ。
誠 分かってるって。いずれにしても本調査もパネル分析だから、風味とかは伝わりにくいだろうな。とにかく皆さん、本調査では予備調査結果で得た仮説を中心に検証することで進めていくことでいいですか?
とりあえずメンバーの賛同が得られたようだったので、誠は次の検討項目に話を移した。
誠 次に本調査に協力していただく対象者についてですが、浜崎さん、Web調査※の準備はいかがでしょうか?
浜崎 予備調査と同じ内容で良ければ、準備はOKです。Web調査会社「アットマークボイス」の全国登録モニター20万人から10代から50代の男女を対象に最低500名ずつ1000名分のデータ採集を依頼しています。地域や年収などもなるべく偏らないよう指示を出しておきました。
誠 ありがとうございます。小栗さんと山口さんにお願いした、中高年女性に直接ヒアリングする手配はどうなっていますか?
小栗 ウチの大口取引先である農協さんにお願いして、40代から70代位の婦人会メンバー200名にご協力いただくことになりました。地方の中高年女性のサンプルとしてはバッチリだと思うよ。
山口 私のほうは大都市圏が対象なので、当社のお客様である大手デパートの健康食品コーナーで店頭ヒアリングを行う許可をいただきました。こちらでも中高年の女性のお客様200名を目標にデータを集めます。
山口が話している途中で、突然会議室のドアが開いた。やや浮かない顔で会議室に入ってきたのは、誠の直属の上司であり、新製品開発プロジェクトのプロジェクトオーナーでもある東山貞治だ。
誠 東山部長、どうかされました?
東山 ミーティング中、割り込んですまないが、君たちにお願いがあってね。実は食品安全担当役員から、「大豆イソフラボンをうたった製品だと、やはり安全性を気にするお客様が多いのではないか? 市場調査するなら、この点も確認してほしい」と頼まれたんだよ。
坂口 ああ、2年前に厚生労働省が出した注意情報をいまだに心配しているんですね。大豆製品を扱う我が社としては、CMや会社のWebサイトで「過剰摂取による危険性の誤解」をずいぶん啓蒙してきたはずですけどね。
東山 そのとおりなんだが、やはり風評が根強いことを懸念しておられるようなんだ。今度の本調査で、安全性についてもお客様の意見を聞いてもらえないかな?
誠 プロジェクトオーナーのご要望ですから、もちろん対応しますけど、調査内容を追加するために本調査開始が少し遅れても構いませんよね。浜崎さん、Web調査の内容を変更するのはどのくらいかかりそうですか?
浜崎 たぶん1週間はかからないはずです。
小栗 我々のヒアリング調査では、直接聞かないほうがいいだろうなあ。その場でお客様から想定外のことで質問攻めになっても、こちらは全部対応しきれないと思うし。
東山 もちろん出来る範囲でやってもらえれば、それでいいよ。最終的に新商品にゴーサインが出れば、あとは食品安全室がきちんと対応してくれるだろう。
誠 じゃあ、浜崎さん、安全性についての調査内容の追加をよろしくお願いします。
その翌週からWeb調査とヒアリング調査による本調査が始まり、2週間ほどで予定したデータ数を集めることができた。社外で行われた本調査の期間中、誠は調査データを集約する浜崎、小栗、山口と、予備調査分析に基づきモニター評価用の試作品を検討する坂口、仲居の二手に作業メンバーを分けた。誠自身もチームの工数不足を補うためにどちらを手伝うべきか悩みつつも、結局人数のバランスと“昔取ったきねづか”ということで、試作品検討チームに加わった。
誠 僕はリーダーだから、あまり作業には参加しないほうがいいのかもしれないな。でも慣れない調査分析よりは、やるならモノづくりの方がいいな。
そんな誠に、データ分析担当の山口から本調査結果の速報がメールで送られてきた。
山口メール 皆さんお待ちかねのWeb調査とヒアリング調査の分析結果速報をお送りします。添付ファイルをご覧いただくと分かりますが、中高年女性に対するヒアリングでは意外な結果になりました。
さっそく添付ファイルを開いた誠は、予備調査での仮説には出てこなかった条件に注目した。
誠 中高年の女性は、どうして「粘度」に関心が高いんだろう?しかもこの結果だと「さらっとした口当たり」が強く支持されることになるな。
再び誠は山口のメール文に目を戻した。
山口メール Web調査結果は予備調査結果とほとんど変わりませんでしたが、ヒアリング調査では「粘度」の影響が最も大きく出ました。この理由はよく分かりませんが、調査方法や対象者が違うことも考慮に入れる必要があると思います。
誠 山口さんの言うとおり、調査のやり方も対象者も全く違うわけだから、結果をそのままうのみにしない方が良さそうだ。ひょっとしたら、ヒアリングは対面調査だったから、より商品の中身に興味が集まったのかもしれないな。
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