明日からあなたの親を介護することになったら?――老人ホーム“以外”の選択肢大出裕之の「まちと住まいにまつわるコラム」(1/2 ページ)

» 2008年12月22日 11時03分 公開
[大出裕之,Business Media 誠]

「まちと住まいにまつわるコラム」とは?

「HOME'Sまちと住まいの研究室」編集長、大出裕之氏が“まちと住まい”をテーマに執筆するコラム。気になるニュースや事柄、新商品や新サービスなどを取り上げ、住まいの専門家ならではの視点で語ります。

大出裕之(おおいでひろゆき):情報媒体や、PC・IT系メディアの編集を長年勤める。ついでにボランティアとして、東京商工会議所のプロジェクトXSHIBUYAを手伝い中。途中ネットベンチャーの起業などを経て、現在は住宅・不動産情報ポータルサイトHOME'Sにて、まちと住まいについてのWebメディアの運営や冊子の刊行などを行っている。「HOME'Sまちと住まいの研究室」編集長。


 「高円賃」「高専賃」「高優賃」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

 ご存じの方は恐らく住宅・不動産業界の方か、介護業界の方、または身近に介護を必要とする人がいらっしゃる方ではないだろうか。

 それぞれの言葉の正式名称は「高円賃=高齢者円滑入居賃貸住宅」「高専賃=高齢者専用賃貸住宅」「高優賃=高齢者向け優良賃貸住宅」。それぞれを具体的に説明していこう。

 高円賃(高齢者円滑入居賃貸住宅)とは、2001年に施行された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」によって定義付けられた登録住宅。高齢者(満60歳以上)という理由だけで、入居を拒否されない賃貸住宅だ。

 この法律が施行された背景には、収入の不安定さや高齢による体調不良を原因とした不測の事態を嫌がり、高齢者の入居を拒む賃貸住宅が多かったことがある。その状況を改善するため「高齢者の入居を拒まない住宅を登録してもらい、住まい探しに役立ててもらおう」という主旨なのだ。ただ、高円賃は「高齢者というだけで入居を拒否しない」というだけの住宅なので、高齢者向けのバリアフリーなどを期待してはいけない。

 高専賃(高齢者専用賃貸住宅)は、高円賃の中でも高齢者(満60歳以上)だけに貸してくれる住宅のこと。そして高優賃(高齢者向け優良賃貸住宅)は、高専賃の中でも高齢者が住んで安心だと考えられる一定の条件を満たした賃貸住宅を指し、国と地方公共団体から貸す側借りる側双方が補助金をもらえる。国が示した一定の基準を満たすバリアフリーがあったり、何がしかの緊急対応サービスを受けることができる住宅なのだ。

財団法人高齢者住宅財団のWebサイト

 高円賃も高専賃も高優賃も、すべて、財団法人高齢者住宅財団のWebサイトで登録物件を検索できる。

 こう書くと高優賃が良いに決まっているのだが、実際は条件のハードルが高いためにそれほど普及しておらず、以下の戸数となっている※。

  • 高円賃:約12万5000戸
  • 高専賃:約2万戸
  • 高優賃:約1万戸
※高円賃は財団法人高齢者住宅財団で2008年4月現在。高専賃と高優賃は「高齢者住宅新聞」2007年10月15日号に掲載された数字。

有料老人ホームとの比較

 法律の主旨はともかく、自分や配偶者の親を介護しなくてはいけない状態になったり、自宅で介護することが難しい状況になると、すぐに頭に思い浮かぶのは「老人ホーム」だろう。読者のみなさんも、そろそろそういう可能性が出てきていないだろうか?

 しかし、社会福祉法人などが運営する特別養護老人ホーム(特養)などは、税金の補助で比較的低価格で入居できる代わりに、ほとんどの施設で空きがない状況。厚生労働省の調べでは、38万5000人が入居待ちをしており(2006年3月現在)、平均1.3年も待たなければならない状況となっている。

 一方でこうした介護施設の新規開設を抑制する「総量規制」の影響により、新たな施設供給は大幅に遅れており、慢性的な供給不足が続いている。民間企業が運営する有料老人ホームも「総量規制」の対象となってしまっているのである。そんな中、昨今注目が集まっているのが高専賃だ。「総量規制」の影響を受けないため、供給事業者側も次々に高専賃の開発に乗り出している。

 ところで、有料老人ホームと高専賃との違いはなんなのか。それは老人ホームが集団生活の場であり均一なサービスを受けられる場所であるのに対し、高専賃はあくまでも「自分の住まい」であり、なおかつ必要なサービスを自分で選んで受けることができる、というところだろう。

 物件によって提供されるサービスはまちまちだが、食事や介護サービス、緊急時の対応など老人ホームに近いサービスを提供している物件もある。介護度の高い方には向かないかもしれないが、ある程度介護があったほうがうれしい人にとっては、新たな選択肢の1つとなるだろう。

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