電子書籍の想定コストの問題がすっきりしたところで、端末とファイル形式の話に移ろう。ネットワーク化への移行に成功した事例として、ここでも音楽事業と対比させて、現状の電子書籍が流行らなかった理由とその改善点を筆者なりに考えてみた。
AppleのiTunes StoreとiPodがキャズム※を超えた理由は色々と言われているが、筆者なりにまとめてみると以下のようになる。
筆者はMac OS 8.6(1999年発表)の時からのMacユーザーなので、2001年秋のiPod登場時の市場状況やユーザーコミュニティーの反応をリアルタイムで見ていた。そのため、主観に満ちた語りになってしまう部分もあるがご容赦いただきたい。
iPodが登場したころは、NapsterなどのP2P技術を用いたファイル共有ソフトの存在もあり、MP3が爆発的に普及し始めていた。Appleもスティーブ・ジョブズCEOのデジタルハブ構想※のもと、2001年初頭に音楽再生・管理ソフトiTunesをリリースしている。iPodのコンセプトは「iTunes to go(持って歩けるiTunes)」でしかなかったので、第二のApple Newton※※に恋いこがれていたMacコミュニティーは(筆者も含めて)失望したものだ。しかし、iPodはMacコミュニティーを中心にアーリー・アダプターを醸成していき、iPod miniの登場でメインストリームに躍り出ることになった。そう、音楽市場では端末が先、合法配信は後だったのである。
現在の電子書籍市場をiPod登場当時のデジタル音楽の状況に照らし合わせてみても、それほど劣っているところは見当たらない。違法ファイルを推進するわけではないが、今日も有名巨大掲示板ではコミックやライトノベルをスキャンした画像詰めZIP/RARファイルがやりとりされているし、有名ファイル共有ソフトのハッシュデータベースで「一般コミック」を検索すると1年以内のものでも1万件以上、「一般小説」だとやや劣るがそれでも2500件ほどヒットする。イノベーターやアーリー・アダプターなどの先進的な人々は完成度の高い端末を心待ちにしていると言って良いだろう。
また合法流通のものでも、原理的にはRSSに対応したWebサイトならテキストだけを抜き出せるし、さらに膨大な量のPDF資産もある。ライブラリに入れるコンテンツには困らないはずなのだ(実際に電子書籍リーダーAmazon Kindleのユーザーの多くはPDFリーダーとしての能力を買っているはずだ)。
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