1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。
著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)など。ブログ「吉田典史の編集部」
2週間ほど前、金融機関の人事部に原稿を送った。私が書いた内容に誤りがないかを確認してもらうためである。テーマは「非正社員の正社員化」。この金融機関は、一定の条件を満たしたパートタイマーを対象に試験を行い、それに合格した人を正社員にしている。
数日後、担当者から電話があった。
「原稿の中に“正社員にしていく”という言葉がある。このニュアンスを弱めてほしい。いまの景気を考えると、正社員にすることはなかなかできない。例えば、“正社員にすることを検討していく”といった具合に……」
会社としては、安易に正社員にはできないということだろう。前回の時事日想でもご紹介したように、いまの労働法や民法のもとでは、正社員を解雇にすることは難しい。おのずと、経営サイドは雇うことに慎重になる。先行き不透明ならば、なおさらだろう。そこで、一定の条件をクリアすれば労働契約を解除できる非正社員を雇うことに重きをおきがちになる。
この金融機関に限らず、多くの企業が非正社員の比率を上げようとしている。
求人広告のアイデム 人と仕事研究所は、「今後の雇用に対するアンケート調査」の結果を発表した。それによると、正規・非正規雇用のバランスを今後どのようにとっていくかという問いに対し、調査対象の約1000社のうち4割近くが「非正社員比率を上げる」と回答している。非正社員の中で比率を上げたい雇用形態としては「パート・アルバイト」、比率を下げたい形態には「派遣社員」が挙げられた。
ここ数年、一部のメディアや政党は、非正社員の存在を格差問題の象徴として大きく取り上げてきた。こうした情緒的で心情的、感覚的な報道により、世論は非正社員の扱いに厳しいものになった。
しかし、経済の最前線にいる経営者の半数近くは依然として、「非正社員の比率を上げる」と答えている。双方の意識の隔たりは大きいが、実は正社員と非正社員の格差問題はこの経営者たちの意識を起点に考えていくべきだろう。そうでないと、問題は解決しない。
そこで、非正社員と正社員のあり方などについて長年にわたり、実証的な研究を続けるリクルート ワークス研究所主任研究員の豊田義博さんに、企業が非正社員の比率を上げようとする背景について尋ねた。まず、豊田さんが指摘したのが経済環境の変化である。
「かつては、日本経済が年を追うごとに成長していく右肩上がりでした。このころは、職場で働く社員の多数が正社員です。基本的には、終身雇用や年功給制度のもと雇用は安定し、賃金は一定のぺースで上がっていたのです。いまは経済全体も、会社の売り上げや利益も上げていくことは難しくなっています」
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