遺跡の発掘品はどこで展示すべき?――時代と空間のジグソーパズルちきりんの“社会派”で行こう!(1/3 ページ)

» 2010年05月31日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2006年5月25日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 ちきりんは大の旅行好きなのですが、古代遺跡を巡る旅の際、いつも頭をよぎることがあります。それは「もしもここにすべてが揃っていたら、どんなにすばらしいだろう」ということです。

 ご存じのように大英博物館には、エジプトの遺跡から出た多くの発掘品や、ギリシャのパルテノン神殿のすばらしいレリーフが展示されています。パリのルーブル美術館はモナリザなどの絵で有名ですが、イスラム世界や古代オリエント時代のコレクションも圧巻です。ドイツの博物館でも、中近東やイスラムの遺産を観賞できます。

大英博物館公式Webサイト

 一方、ギリシャに行けばパンテオン宮殿の骨格は残っていますが、最もすばらしいレリーフはイギリスに行かないと見られません。教科書に必ず登場するロゼッタ・ストーンも、エジプトにはレプリカしかなく、本物は大英博物館にあります。

 ちきりんは欧米の大きな博物館も大半は訪れたことがあるので、ギリシャやエジプトの遺跡では、過去にロンドンやパリで見たすばらしい発掘品やレリーフを思い浮かべ、頭の中で合成した図を想像しながら当時の様子に思いをはせます。時間と空間を越えてバラバラにされたジグソーパズルを頭の中で組み立てるような作業をしながら楽しむのです。

 そんな時いつも考えるのは、「すべてがオリジナルの場所に揃っていたら、どんなにすばらしいだろう」「でも、本当にそれが一番いいんだろうか?」ということです。

 例えば、博物館の収蔵品を持ち帰った当時の欧米諸国は、経済力や軍事力において圧倒的でした。大半の遺跡は欧米の調査団が最初に発見しており、彼らはそれらの多くを無料かつ無断で祖国に持ち帰っています。「いや、合法的に購入したはずだ」と主張する場合でも、実際には遺跡が発見された土地の所有者であった農民に10ドルほどを渡して、発掘品を“正式に”購入したようなパターンも多いのです。

 中国はこれを非常に問題視していて、中国の遺跡に行くと説明パネルで「いかに欧米の人たちが中国の財宝を勝手に持ち帰ったか」が説明されています。敦煌の莫高窟では「欧米人が壁の絵をはがして持って帰った」という話のほかにも、「ロシアの軍隊が莫高窟を宿舎に使い、その中で煮炊きをして多くの壁画がすすにまみれ剥落した」といった記載もあります。

 そういうことを、莫高窟を訪れた自国民、そして他国の観光客に積極的に知らせようとする中国の姿勢には興味深いものがあります。実は日本の浮世絵も海外の美術館にすばらしいコレクションがありますが、ああいったものが海外に流出した経緯を聞くことは日本ではほとんどありませんよね。

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