ここまでを見ると、編集者が一定のペースで売れる本を出していかざるを得ない事情が分かってくる。だが、ゴーストライターを起用する理由があいまいである。そこで今回、取材が許された編集部を仕切る編集長に尋ねると、このような回答だった。
「初版で仮に7000部を刷るとする。そのときに、発売後1カ月以内で少なくとも3000部は売りたい。増刷に持ち込むためには、書店に並べて始めの1カ月で最悪でも3000部以上、2カ月目で1500〜2000部、3カ月目で750〜1000部にはしたい。このペースでもその本にトピックス(話題)があり、それが広がらないと、売り上げを伸ばすのは難しい。最終的に3万〜5万部の売り上げになるためには最初の1〜2カ月の数字は、もっとよくないといけない。なお、編集部全体で3万〜5万部売れている本を1冊でも多くそろえることが、財務的にいちばんいい。10万部を超えるものがあるが、1万部を切る本がいくつもあるというのは部としてまずい」
この編集長の発言は、私のつかんでいる情報とかなり重なる。ポイントは「発売後1カ月以内で少なくとも3000部以上」のところだろう。これは、1日で約100部ということになる。これだけのペースで本が売れる著者は、おのずと限られてくる。読者がメディアでよく見かける、“いつもの人たち”である。
なお、違う出版社の編集部長は「1日で全国の書店で50冊売れていれば、その本は合格」だという。ライターや作家の中で、この言葉を素直に受け入れている人がいる。だが、これは「発売後、数カ月以降のこと」を意味しているのではないだろうか。本の発売直後からこのペースでは、1カ月目が1500冊となり、翌月が700〜800冊に落ち込む可能性があるからだ。
ここまで来ると、書籍編集者がゴーストライターを使い、毎度定番の人に書かせていく背景が見えてくる。そもそも、なぜ書籍編集者は“いつもの人たち”に「本をご自身で書いてもらえませんか?」と仕向けないのだろうか。それについて、取材をした編集長は「そんなことは言えない。怒らせて逃げられたら、おしまい」という。
実際は、ほとんどの著者が「ライターに(自分の代わりに書くことを)お願いしたい」と編集者に頼んでくるという。だが、私の考えとこの編集者の回答は違う。私は、多くの著者からこういう話を聞かされる。「編集者がここに来て、本を出すときはうちのライターに書かせますから……と言った」。そのメールを、私は数十通入手している。
いずれにしろ、「年間20冊のペース(努力目標)」「編集者の人事評価(職務遂行能力)」「発売後1カ月以内で少なくとも3000部以上は売る」あたりの事情を踏まえると、ゴーストライターを絶えず起用せざるを得ないのだろう。
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