公務員の“高給取り”をどうとらえるか?――人事コンサルタント、前田卓三さん(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(2/5 ページ)

» 2010年06月12日 00時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

仕事基準とは何か?

 「人基準から仕事基準へとシフトすべし」と主張する前田氏だが、では、その仕事基準とはいったいどのようなものなのだろうか?

 「役所でも企業でも、組織の使命は価値の創造にあります。例えば、ユーザーが製品やサービスを購入しようという場合、その製造プロセスにおける属人的要素に関心を払うことなどありませんよね。あくまでも、その最終商品の価値(品質と価格)を見て購入の是非を決定します。

 それとまったく同じで、属人的要素(レッテル)からまったく自由になって、“市場(顧客)や納税者から見た仕事の価値”に評価の基準を置くのが仕事基準です。

 言い換えれば、『その組織の指向する価値創造にどれほど貢献するか』という観点から、その個人の価値創造レベルを客観的に評価し、それに見合った適正な報酬を支払うという考え方です。“仕事本位制”と表現しても良いでしょう。

 欧米では『人が人を評価してはいけない。人が評価できるのは仕事だけだ』というのが古くからの常識ですが、それはまさにこういうことなんです」

 確かに、昔から日本の無名の若者が何のツテもない欧米で、自分たちのプロダクトとか企画とかを大企業などにプレゼンテーションし、採用された例は枚挙に暇がない。これなど仕事基準の典型例であろう。日本だったら、ほとんどの場合、「どこの馬の骨とも知れない若造」と言われて門前払いを食らったり、提案内容を知らないうちにパクられたりして終わりである。

 さて、この仕事基準という考え方であるが、それを組織内でどのように制度化できるかが重要であろう。そこで、前田さんが構築した評価制度が「付加価値報酬制(CVA=Compensation by Value Added)」である。

 これは、15年以上前に、北欧のエリクソンやABBなどのグローバル企業が実験的に導入したコンセプトを発展させたものであるという。そして、この制度は、日本国内では花王やキヤノンなどのグローバル企業に導入したほか、地方の中小企業や事業再生中の企業、あるいはM&Aにおいても顕著な効果を発揮していると聞く。

付加価値報酬制とは何か?

 「付加価値報酬制の最大の特徴は、価値の構成要素を3つのP(=ポジション、パフォーマンス、パーソン)でとらえ、これらに対して報酬を支払うことにあります。

 まず、“ポジション”。野球でいえば、例えばキャッチャーには、キャッチャーとして必ずやらなくてはいけない役割がたくさんありますよね。そうした役割(職責)の蓄積(=stock)がポジションなんです。

 このポジションは、「責任の大きさ」「仕事の難しさ」「影響の大きさ」という3つの側面から評価されます。

 そして、そのポジションに就いている人が、一定期間で新たな価値創造をどれほど達成するか(これは通常『目標』として掲げられる)、そのフロー・バリューを“パフォーマンス”と呼びます。キャッチャーだったら、「今シーズンの盗塁阻止率を●割●分に上げる」といったことですね。

 そして、3つ目が“パーソン”ですが、これは上記2つの要素のための必要条件です。キャッチャーだったら、強肩や技術といった他者から見える要素、そして沈着で冷静な判断力があるとか積極性があるといった、日本語で「●●力」とか「●●性」と表現される、ほかからよく見えない要素ですね。いわゆるコンピテンシーです」

付加価値報酬制の基本概念(出典:ヒューマンキャピタルソリューション研究所)

 一時はプロ野球を目指した元野球少年の前田さんらしい、分かりやすい説明である。この3つのPに対して報酬を支払うとのことだが、では、その評価比率については、どのように考えればいいのだろうか?

 「管理職はパーソンの要素が満たされていることが前提なので、パーソンを省きます。そして例えば、人事や経理などの管理部門の管理職であれば、ポジション(基本給に該当)の占める比率が圧倒的に高くなりますし、営業部門などではポジションとパフォーマンスが、例えば5対5になったりします。

 また、管理職ではなく、職歴の浅い若手の場合には、例えばポジション5対パフォーマンス2対パーソン3になるなど、構成比率はケースにより多様です」

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