イマドキの若い人はお金を求めない――この言葉の裏に潜むワナ吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年08月27日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


 後味の悪い取材だった。3年前の夏、人事労務の雑誌の特集で8社ほどの「退職金制度」について取材した。いずれも、創業10年以内のベンチャー企業。これらの会社は、ビジネス雑誌などによく取り上げられるので、知名度は高い。その後、早々と上場した会社もあるし、カリスマ経営者が盛んに話題を振りまく会社もある。

 取材のときに、社長や人事部の部長がこう答えていた。「いまの20〜30代の社員は退職金を求めていません。何よりも、仕事のやりがいを求めています」――。

 これらの会社には、退職金制度がない。制度がない以上、退職金を支給する必要はない。法律上も、就業規則や賃金規定などに「支給する」と記載されていないならば、退職金を支払わなくとも問題はない。その意味で会社の考えは不当ではないし、批判を受けるものでもないのだろう。しかし、私は次のような疑問を感じた。

 20〜30代の社員は、本当に退職金を求めていないのだろうか。「求めていない」と言い切る根拠はあるのか。この世代の社員は、退職金がどのようなものであるのか理解しているのだろうか。会社として、その意味するものを説明したのだろうか。

 これらについて尋ねてみたが、いずれも同じ回答だった。「いまの若い人はお金のことを考えない。会社にぶら下がる考えを持っていない。それよりは、働きがい、例えばオフィス環境を整えたりすることを求めている」と。

 そして、ある社長は事務所の中を案内してくれた。確かに相当なお金をつぎ込んで作られたようだった。

 だが私は、腑に落ちないものがあったので、記事にするのを止めた。その後、知人の紹介でこのうちの数社の退職者から話を聞くことができた。それによると、会社は社員に対し「退職金制度が必要であるかどうか」はもちろん「給与や賞与についてヒアリング(聞きとり調査)をしていない」という。

 会社として、退職金の意味を社員に説明したこともないようだ。ここに矛盾がある。これらのうち5社の経営者は、かつて大企業に勤務していた。それぞれ30代後半〜40代半ばのころに、1000万円〜2000万円後の退職金を受け取って辞めている。このお金を資本金や運転資金に使い、会社の経営をスタートした。これは、本人たちにインタビューした際、答えていたことだ。

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