シャッターの張り付き、絞りの張り付き、レンズ再組み立てと、次々に不具合が発見されるCanon Dial35。きちんとメンテナンスされていればそんなに壊れるカメラでもないのだが、適当な修理で本来の性能がまったく発揮できなくなっていた。
さて、フォーカス調整も行ない、そろそろ実写かと思って電池を入れ、露出計の動きを確認する。Dial35は、正面のダイヤルを回してフィルムのISO感度を設定する。電源OFFの機能はないので、電池を入れている限り、基本的に針はずっと振れっぱなしである。
手元の露出計と比べながら針の動きを確認したが、どうもおかしい。針が極端に振れ過ぎるのである。露出計の値を比較してみたところ、どうも3絞りぐらい明るい値を示している。明るい値を示すということは、実際に写真を撮れば3絞りぐらい暗く写ってしまうということである。
CdSセンサーというのは、光を当てると抵抗値が下がるという現象を利用した光センサーだ。メーターが振れ過ぎるということは、抵抗値が下がり過ぎである。写真の正常露出に対して、感度が高過ぎるわけだ。最初に分解したときに、CdSセンサーが黒く塗りつぶされていた(関連記事)が、こうやって露出計の感度を下げていたものだと思われる。
確かに感度さえ下げればいいわけだが、黒く塗りつぶしてハイOKというのは、修理としてはいささか野蛮過ぎるように思える。もう少しちゃんと確かめてみよう。1つ疑わしいのは、CdSの感度を調整していると思われる固定抵抗の劣化である。まずはこの固定抵抗を調べてみる。
抵抗はカラーコードから、3.8キロオームであることが分かった。テスターで計測してみると、ちゃんと3.8キロオームを示す。抵抗は問題ないようだ。そうなると考えられるのは、CdSが壊れかかっているということである。
これまで多くのカメラを修理してきたが、CdSが壊れているというのは初めての経験である。安定性が高く枯れた技術なので、これまで意識したことはなかったが、まあそういうこともあるのだろう。
さっそく代替になりそうなCdSはないかネットで探してみると、いまだ現役パーツとして売られていることが分かった。サイズもそんなにバリエーションがなく、オリジナルのものとそれほど変わらないものもありそうだ。仕事のついでに秋葉原に立ち寄り、適合しそうなCdSを買って来た。1個150円程度である。
右がオリジナル、それ以外が新たに購入したものだ。左のものはカプセルに入っており、防滴仕様となっている。オリジナルもカプセルに入っているのだが、これはネジ止めの金具を取り付けるためにパッケージに入れたものらしい。
新規購入の防滴タイプはサイズが合わないので、防滴仕様ではない真ん中のものを使用する。サイズはほとんど変わらないものの、オリジナルのようにネジ止めで固定できないので、裏面をボンドで軽く止めることにした。
オリジナルのセンサーの特性が分からないので、同じ抵抗をくっつけても正しい値を示すかどうかは不明だ。そこで途中に可変抵抗を入れて、様子を見ることにした。以前北米版のDial35の修理で分かったことだが、北米版のものには可変抵抗で露出感度を調整できる機構があったのだ。
あいにく日本仕様のDial35は、シャーシに穴が空いていないので、同じ場所に可変抵抗を入れても外側から調整できない。そこで、CdSセンサーの近くに取り付け、そこの隙間から暗箱内に顔を出して調整できるようにした。可変抵抗は極小のもので、最大20キロオームのものである。10キロオームのものも買ったのだが、きれいな抵抗値を示さなかった。
CdSの足がシャーシに触れるとショートしてしまう。絶縁が大変だったが、何とかうまく取り付けられた。実際に撮影してみないことには分からないが、メーターの振れは別の露出計の値と合っているようだ。ただし、狙った方向に対してリニアに反応するわけではなく、全体の環境光に対して反応する感じだ。逆光など難しい露出に関しては、手動で補正する必要があるだろう。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング