会社員は泣き寝入りしかないのか? 震災を口実にした“便乗解雇”吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年04月15日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

第三者機関が十分に機能していない理由

 今回の震災では、経営難に苦しむ経営者が社員を解雇にすることがありうるが、労基署や労働局が頼りになるのかどうかを社会保険労務士の庄司英尚さん(参照リンク)に話を伺った。

 「確かに現地の労基署や労働局は、丁寧な対応が難しいかもしれない。しかし、もともと労基署は民事不介入。解雇の有効・無効を争う場合などの相談にはのらない。相談に訪れた労働者が解雇になったとしても、職員らは労働基準法に照らし、基本的な考え方の説明しかしない」

 むしろ、労基署は「今回のような震災の後では、解雇などはやむを得ないだろう」と言葉を濁して、今後の就労支援としてハローワークの支援体制などを労働者にアドバイスすることが考えられるという。

 だが、私は労基署だけを責めることはできないと思う。今回のようなときにすら、労基署を始めとした公的な第三者機関が十分に機能しない理由の1つは、実は労働者が長年にわたり作ってきたからである。

 私が観察していると、多くの会社員は労働法の知識を得るわけでもなく、労働組合活動を熱心にするわけでもない。不当な行為を受けても、実際、法的に争う人はごく少数。仮に例えば、労働組合ユニオンに入り、そこの役員らと一緒に労基署へ行き、事実をもとに何度も交渉すれば、監督官や職員は会社に言ってくれるかもしれない。全国いたるところで、労働者が自らの権利を主体的に守ってきたのであれば、現在のようないびつな労使関係にはならなかっただろう。

労働者は本当に「弱い身」

 庄司さんは、会社員がこの時期に気をつけるべきことは「整理解雇を始めとした解雇」と言うが、その場合も労基署は「労働者に丁寧な対応をすることは難しいのではないか」と疑問を呈する。

 「例えば、労働基準法には30日以上前に解雇予告が必要とうたわれている。だが、今回のような天災の場合は、その解雇予告がいらないとなっている。いわゆる適用除外というものだが、これはあくまで事業主が労基署に申請をして、解雇予告をしなくても構わないと認められた場合に限る。しかし、会社や工場が全壊したような事業主はこの手続きを踏んでいない可能性がある。そのようなとき、労基署は事業主に“解雇予告をしない時の手続きを踏まえなさい”とは言えないのではないか」

 さらに会社が全壊したわけではないが、取引先が減り業績が落ち込む場合もある。そのとき、会社は解雇をちらつかせながら、退職勧奨をしてくる可能性があるという。例えば、「このまま会社に残っても賃金を上げることもできないし、あなたの仕事もない」などと言い、辞表を書くように仕向けることである。庄司さんは「特に中途採用で入り、賃金が同世代の中で高い人はその対象になりやすい。立場が弱く、事業主からすると言いやすい人もターゲットになることが考えられる」と話す。

 もともと労働者の立場は弱いのだが、このような事態になると、本当に「弱い身」であることが分かる。

 大震災は、東北以外の地域にも影響を与え始めた。全国の中小企業や個人事業主などが加盟する日本商工会議所は、札幌、名古屋、京都、大阪、兵庫、高松の各商工会議所で、3月中旬〜下旬に緊急調査を実施した。

 それによると、震災で直接・間接の影響があった企業の割合は、名古屋が78%、大阪76%、兵庫75%、京都72%、高松61%、札幌は59%となった。その影響で最も多いのは、「仕入れ先の被災や電力不足で、部品や原材料などの調達に支障」、次に「物流の問題による原料・部品の入手困難」だった。

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