社長が営業をする会社は危ない!?吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年07月15日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

“緊急避難”の策

 だが、2人のコンサルタントは「トップセールスは悪化した経営状態を抜け出す“緊急避難”の策でしかない」と強調する。半年以上続けると、数年以内にその悪影響が営業部を中心に社内全体に出ると言う。

 「トップセールスをすると、営業部員が育たない。部長や課長などマネージャーは、社長に遠慮し始める。部下の育成を一段としなくなる。社長の前では、部下に思い切った発言ができない。部員もマネージャーを軽く見て、飛び越えて社長に相談をすることすら起きる。マネージャーはこれに嫌気がさし、辞めていくこともある。このレベルの会社に次々と優秀な人はエントリーしない。社長が、その現実を心得ていない」

 つまり、組織として動くことができなくなるのだ。2人はこうも言う。「そもそも、業績が悪化するのは営業部が組織として稼ぐことができないからだ」と。

 「例えば、20人の部員がいる会社ならば、マネージャーとその部下2〜3人だけで稼ぐ体制になっている。それ以外の社員は、シラケている。本来、社長はこのシラケた社員たちを戦力になるためにレベルを上げて、みんなで競争する仕掛けを作らないといけない。ところが、社長が営業すると、一部の営業部員だけの組織になってしまう」

 ここで、2つの営業部に分かれてしまうのだという。通称・第1営業部は、社長やマネージャーと、その部下2〜3人。通称・第2営業部はそのほかの稼げない、シラケた人たち。こうなると、組織で稼ぐことが一段とできないがために、売り上げの割には利益が上がらない。

 これは私の分析だが、2つの営業部ならばまだ組織として闘うことができているから今後、建て直すことができうるかもしれない。売り上げで言えば10億円以下で業績が伸びない会社は、部員の数だけ営業部がある、というのが実態。ムリ・ムダ・ムラの塊で、そのことにすら気がつかない社員も少なくない。

 こういう状態に社長は焦り、トップセールスに一層、エネルギーを注ぎ込む。これはまさしく「アホな社員には任しておけない」という使命感であるが、この姿勢が組織を作ることに逆行する。社長が動けば動くほど、営業先との会社との関係が深くなる。そこには、第三者が入ることが難しくなる。こうなると、社長が社員たちにその会社の担当を任せることがなかなかできない。おのずと社長の営業部に与える影響が非常に大きくなる。

 このあたりで、ついに側近であったマネージャーとぶつかることが増えてくる。マネージャーの不満が爆発し、造反する。部下2〜3人を引きつれて辞めて、新たな会社を作ることすらある。ここで売り上げが一段と伸び悩む。給与も賞与も上がらず、30代前半までの社員が次々と辞めていく。残るのは、転職先がない社員になる。トップセールスを半年以上も続ける社長は、社内のこういう事情に鈍い。それもそのはずだ。営業で忙しく、会社にはあまりいないのだから。

 やはり、社長は営業から1日も早く離れて、組織を俯瞰(ふかん)でとらえる側に回らないといけない。そして、それぞれの部署や社員がスムーズに動く仕掛けを作るべきなのである。いったん仕掛けができたとしても、機会あるごとにそれをリニューアルする必要がある。その仕掛けは、特に営業部員がみんなでバリバリと稼ぐことができる体制を作ることが大きなポイントになる。

 そのためには、競争に数人だけが参加するこれまでの体制ではなく、すべての人が加わる体制を目指すべきなのだろう。その方が競争は激しくなり、契約本数も契約高も増えていく。2人によると、売り上げ50億円を超える会社はおおむねそのような体制になっているという。私の認識では、30億円〜40億円の会社でも時折、見られる。

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