インタビュー
» 2011年08月26日 08時00分 公開

震災後「利用客ゼロ」からの再起――はとバスのいま嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(4/5 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

パンフレットはラブレター、アンケートはそれへのお返事

 企画が成功するか否かは、企画内容自体の良し悪しもさることながら、見せ方(集客ツール)や、現場を担うバスガイド・ドライバーや訪問先施設の対応にかかっている面も大きいと思われる。それらの点について、はとバスの取り組みをお聞きしたい。

 「私は『パンフレットはラブレター。アンケートはそれへのお返事』と常々言っているんですよ(笑)。

 都内の定期観光バスであれ、各地へのツアーバスであれ、以前の弊社のパンフレットは役所の告知のような雰囲気のもので、とても地味でした。でも、そんなものでは人の心はときめきません。企画内容の魅力や弊社のお客さまへの思いがストレートに、そしてダイナミックに伝わるような、パンチ力のあるパンフレットにしないといけない。それで私は表現や写真、色使いやレイアウトなどを一新しました」

 結果として、同社のパンフレットは業界内外で評判を呼び、利用客からも「以前よりも分かりやすくなった」とか「見ているだけでワクワクしてきて、選ぶ楽しみができた」といった声が届くようになったと聞く。

 そんな“ラブレター”に対する顧客からの“お返事”であるアンケートは、月平均500通届く。アンケートは、得てしてクレーム対応の素材としての扱いになりがちだ。しかし、松尾さんは「パンフレットはラブレター。アンケートはそれへのお返事」というロマンチックなフレーズを通じて、パンフレットとアンケートを不可分一体のものと見なす習慣を社内に根付かせ、アンケートを、業務改善はもとより潜在需要発見のツールとして有効活用することに成功している。はとバスのヒット企画連発の秘密は、こうした点にも隠されている。

本社の1階には利用者のアンケートが貼られている

 とはいえ、時として“思い”がお客に届かないというケースもあるだろう。不幸にして顧客から「ふられてしまった」場合、とりわけ顧客がアンチになってしまった場合の対応はどのようにしているのだろうか?

 「なぜ、そうなってしまったのか。その原因を徹底的に究明し、その結果をお客さまにお伝えするようにしています。その結果をお聞きになって、心から納得されるお客さまの比率は5割くらいでしょうか。

 ちなみに、クレームで最も比率が高いのは食事に関するものです。『イメージしていたものとは違った』という内容が多いですね……」

 そうしたアンチを極力出さないようにするために、松尾さんが日ごろから社内で強調しているキーワードやキンセンテンスはあるだろうか?

 「社内で私はよく言うんです。『言いわけからは何も始まらない』『どっちにするか悩んだらお客さまの立場で考えろ』と。

 また、こうも言います。『100−1は“0”だ』と。たった1人が方針と異なることをするだけでも、0になってしまう。でも、『100−0は200にも300にもなる』と。こうした姿勢を、全部門で日々追求していくことを通じて、弊社の思いを確実にお客さまにお届けし、喜んでいただきたいと思っています」

キーワードは“温故創新”

 はとバスの事業活動のベースは何といっても東京観光ということになると思うが、松尾さんから見た東京の魅力とは何だろうか?

 「空間的そして時間的な奥深さです。どう光を当てて、眠れる魅力を引っ張り出していくかが勝負だと思います。

 私はよく“温故創新”と言います。『故きを温ねて(ふるきをたずねて)、新しい価値を創造していく』という意味の私なりの造語です。例えばの話ですが、今は東京スカイツリーがブームですが、東京タワーだって光の当て方を変えることでいろんな新しい魅力を創造することができると私は思います。

 一例を挙げるならば、団塊の世代の方々にとって、東京タワーは高度経済成長の象徴のような存在でした。そうした往時の映像をバスの中でご覧になっていただくことで、当時のことを、そして自身や夫婦の歩みを回想していただくことができる。その上で現在の東京タワーを体感していただく。

 その一方で若いカップルには、例えば東京タワーを階段で上っていただくという演出を通じて、2人だけの時間と2人だけの素晴らしい眺望を満喫していただくということだってできる。

 1つの建物に関して、それ自体の案内をして『ハイおしまい』ということではなくて、そこに持っていくストーリー性こそが何よりも大事だと私は思っています」

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