インタビュー
» 2011年08月26日 08時00分 公開

震災後「利用客ゼロ」からの再起――はとバスのいま嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(2/5 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

震災後利用者ゼロからの再起

 はとバスは1948年の創業以来、同社の「顔」とも言うべき観光バス事業を中核にしつつ、ホテル、路線バスの運行受託、グッズ販売/料飲(飲食事業)、クルージングなどの分野にも進出してきた。従業員数は約1000人で、売り上げは153億円(2010年6月期決算)。

 都内定期観光バスはもとより、東京を基点とした各地へのバスツアーに関して代表的な存在と言えるはとバスであるが、震災によって、どれほどの影響を受けたのだろうか?

 「観光バス事業を中心にお話ししたいと思います。震災発生後の3〜4月はキャンセル続きで、保有する観光バス136両はほとんど稼働しませんでした。特に3月12日〜31日はゼロです。

 現在(2011年7月)までの状況をデータでお示ししましょう。都内定期観光バスに関しては、前年同月比で3月26.5%、4月46.5%、5月61.7%、6月77.8%です。外国人の利用者数に関しては、3月26.9%、4月5.1%、5月14.9%、6月21.8%となっています。また、各地へのバスツアーに関しては、3月29.3%、4月30.9%、5月67.2%、6月70.1%です※。

※3月の数字が一見多いのは、地震前の3月10日までは通常通りの営業だったため。

 弊社は6月期決算ですが、2009年度の利用者数99万人に対して、2010年度は86万5000人となり、赤字決算となりました」

訪日外国人数の推移(出典:日本政府観光局)

 そもそも震災前、はとバスをめぐる経営環境はどのようなもので、松尾さんはどのような見通しを立てていたのだろうか?

 「“ビジットジャパンキャンペーン”の下、年間8万人規模まで増えていた外国人利用客が、2008年のリーマン・ショックで年間6万人台に落ち込んでいました。

 それがようやく回復傾向に向かい、さらに中国人の個人観光ビザ解禁(2010年7月)という動きもあって、いよいよこれから本格的に訪日外国人を呼び込めると踏んでいた、まさにそのタイミングでの震災発生だっただけにダメージは大きかったですね。

 欧米系の方々は少しだけ戻ってきたのですが、アジア系の方々はシビアです。現在は外国人向けの定期観光バスは4コースだけですが、それも満席にはなりません。

 外国人客に限らない全般的な状況としては、ゴールデンウイークに直前予約が急増し、その後また落ち着いてしまったものの、それでもゴールデンウイークを境に、徐々にではありますが回復基調に入ってきています」

建て直しへの道

 震災という大きな環境変化に遭遇して、はとバスは何か大胆な策に打って出ることはなかったのだろうか?

 「観光事業は安心・安全・平和が大前提で、社会が安定していて初めて成立するものです。従って、原発の問題がいつどのように収束するかが大きな焦点となります。問題が長期化するようであれば、弊社としても中期戦略を再構築せざるを得なくなるでしょう。しかし現状まだそこまでの段階ではないと考えており、まずは安全確保などに取り組んでいます」

松尾社長

 業績が一時的に悪化したからといって、現状否定型の奇策に打って出ることはないということだろうか?

 「それはありません。震災後は被災地以外の人々の意識にも変化があり、例えばハワイに旅行しようと思っていた家族が国内旅行に切り替え、そういう時に『はとバスなら安心、安全で信頼できるから』ということで申し込んでくださるなど、昔ながらのアナログな“はとバスらしさ”というものが、今改めて評価いただけている面があると思っています。

 ですから、弊社のメタコンピタンスとしての“おもてなし”を、バスガイドやドライバーはもとより、事務部門まで含めて全社員で共有し、それを全部門でブラッシュアップしていくことを大切に考えています」

 小さくなったパイをめぐる同業他社との競争において、どんどん熾烈化してきている価格競争に参戦する意思はないということだろうか?

 「価格競争に巻き込まれることは、すなわち“はとバスらしさ”を喪失することを意味します。はとバスらしさとは、創業以来、おもてなしを通じてつちかってきた“はとバスなら安心・安全”というお客さまの信頼感です。企業経営においては、どんなに厳しい環境変化に遭遇しても、絶対に変えてはいけないもの(=『不変』の対象)が存在しますが、そうしたはとバスらしさこそが変えてはいけない部分だと思います」

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