カーシェアリングと自動車販売の意外な関係――MINI + タイムズプラスは、なぜ実現したのか神尾寿の時事日想・特別編(3/4 ページ)

» 2011年08月31日 10時08分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

「クルマを買うからカーシェアリングをやめる」

 これまでカーシェアリングは、「クルマの所有からクルマの利用へ」という新たな流れと見られてきた。しかし、その逆のパターンも出てきている、とパーク24の内津氏は指摘する。

 「カーシェアリングのユーザーは急速に増えているのですが、一方で、毎月の解約も一定数あります。その解約理由としてもっとも多いのが、転居によって近所にステーションがなくなるから。そして2番目の理由は、『クルマを購入するから』なのです」(内津氏)

 クルマにあまり必要性を感じず、初期コストやランニングコストを鑑みて、購入・所有よりもコストパフォーマンスが高いカーシェアリングに加入する。しかし、カーシェアリングを使っているうちに、クルマ利用の頻度が予想以上に増えたり、クルマそのものが好きになってしまってクルマを買う(=カーシェアリングを解約する)。そういった層が確実にあるという。

 「こういった、カーシェアリングから購入へと移行するお客様にとって、タイムズプラスでお乗りいただいていたクルマは親近感があるのです。特にMINIのようにデザインがいいクルマは、カーシェアリングで乗っているうちに愛着がわいてくる。ここが我々のサービスと、自動車販売が補完関係を築けるポイントなのです」(内津氏)

 そこでパーク24では、BMWがMINIの販売強化を行っているエリアの貸出ステーションに、MINIのカーシェアリング車両を集中配備。マーケティングデータの共有を行った上で、プロモーション活動での連携も図った。MINIに興味があるからタイムズプラスに加入する、といった新たな会員獲得もできるようになった。

MINIの貸出ステーション検索画面。ちなみにBMWのカーシェアリング公式サイトもあり、そちらではBMWを貸出可能なステーションが探せる

 しかし、ユーザー全体の一部とはいえ、クルマを購入したユーザーはカーシェアリングサービスを解約してしまう。タイムズプラスにとって、彼らは利用頻度の高い優良顧客だったはずだ。その点はパーク24側から見てデメリットではないのだろうか。

 「いえ、それは問題ありません。なぜなら、我々(パーク24)の本業が時間貸し駐車場だからです。クルマを購入されたお客様とは、タイムズプラスというカーシェアリングの部分では接点がなくなってしまいますが、そのクルマを使えば外出先での駐車場が必要になりますよね。そこで(駐車場の)タイムズをご利用いただければ、駐車場サービスの新たなお客様になっていただけるわけです」(内津氏)

 駐車場事業者のパーク24にとって困るのは、クルマに乗る人が誰もいなくなってしまうこと。カーシェアリングサービスは「クルマ利用」で自動車市場の裾野を少しでも拡大し、クルマに乗る人たちを増やすためのものだ。だからこそ、多頻度ユーザーがクルマ購入に移ることは「まったくもってウェルカム。とても嬉しいこと」(内津氏)なのだ。

 パーク24では今後さらに貸出ステーションとカーシェアリング車両を増やしていくという。

 「サービス開始1年で2500台のクルマを用意しましたが、今後1年でさらに1500台の増車を行います。まずはタイムズプラスを、多くのお客様にとって身近なものにしていきます。

 そして、今後増やすクルマの中には、MINIやBMWなど乗って楽しいクルマ、魅力的なクルマも積極的に取りそろえていきます。タイムズプラスは無人のショールーム(のような存在)でいいと思うのです。そして将来は、お客様がファッションを楽しむように、いろいろな魅力的なクルマに乗れるような環境を作りたい」(内津氏)

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