なぜ若者はテレビ離れしているのか、制作会社から見たテレビの現在嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(4/4 ページ)

» 2011年09月09日 20時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4       

グローバル戦略の推進こそが業界生き残りの唯一の策

 霜田さんは日本のテレビ業界、とりわけ番組制作会社の生き残りの方策に関して、ある明確な方向性を考えている。

 「これまで日本のテレビ番組制作業界は国内市場のみをターゲットにして発展してきました。それが今や市場は成熟し、衰退・縮小すらし始めています。それにもかかわらず、番組コンテンツは逆に増える一方であり、当然の帰結として価格は低落し続けています。

 今後、効率よくお金を稼げるような番組を数多く担当できればそれに越したことはありませんが、こうした市場環境ではそれも難しい。そうかと言って、低予算の番組ばかり何十本も抱えてみても経営は成り立ちません。

 そういう状況を前提に考えるならば、業界としての生き残りは、グローバル市場に求めざるを得ないのではないでしょうか?

 そうは言っても、日本人が日本語で日本人向けに作った番組に外国語の字幕スーパーを付けたからといって、海外市場で即、通用するわけではありません。

 現代の日本人に、海外でウケルだけのスピリットがあるかと言えば甚だ疑問です。1983〜1984年にNHKで放映されたドラマ『おしん』が、その後東南アジアを中心に大ヒットしたのは、日本人のスピリットが強かった時代の作品だからです。

 今の日本人は「●●してはいけない」という多くの制約に囲まれ、生の感情やエネルギーを表に出しにくくなっていますよね。でも、生の感情やエネルギーを表出できないと、見る人に感動を与えることはできないんです。

 グローバル市場で勝負するのであれば、そうしたエネルギーをストレートに表現できる海外の俳優を起用して、英語や中国語、スペイン語などで制作することを考える必要があるでしょう。冗談みたいな話ですが、私なんてそれを実現するためにアフリカあたりに行って番組制作会社をやろうかな……などと思っているんですよ(笑)。

 グローバル戦略で大事なことは、オーソドックスなものをちゃんと作れるということです。テーマ的には例えば『母をたずねて三千里』のようなものです。

 モーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』やチャイコフスキーのバレエ『白鳥の湖』のような18〜19世紀の作品が、国境や時代の壁を超えて21世紀の今でも世界中で愛好されていますよね。私たちも、こうした“普遍性の高いテーマで作家性を追求する”方向性を目指すべきだったのにやってこなかったのです」

 停滞・衰退を続ける番組制作業界にあって、こうした壮大な新市場開拓戦略に打って出るためには、資金調達の離れ業を考え出さないといけない。霜田さんは、ヤフーやグーグルに代表されるようなインターネット系ないしは通信系のグローバル企業とアライアンスを構築できるかどうかが勝負になると考えているようだ。

 そして何より、これだけの戦略を構築し、遂行していくのであれば、それを担っていけるだけの人材を多数確保しなければいけない。霜田さんは“情熱のある人材”と出会っていきたいと切望しているという。

 霜田さんによると「情熱」とは「我慢して、先輩たちのやることを見続け、それを体得する力」だそうだ。残念ながら、ほとんどの人が体得するはるか前に辞めてしまう。情熱あふれる若い人々が、海外から選り抜かれた俳優やスタッフと切磋琢磨してゆく中で成長し、日本の番組制作能力を底上げしていくならば、日本のテレビ業界の未来にも薄日が差し込んでくるかもしれない。

 果たして、そうした人材に今後めぐり会っていけるだろうか? 企業として、業界としての将来を左右する問題だけに、霜田さんの健闘を期待するばかりだ。

ザ・ワークスの独自制作コンテンツ『19borders』

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


関連キーワード

嶋田淑之


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.