日本人製作のIKEAのベストセラーチェア『ポエング』、“清貧”デザインの秘密郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2011年09月15日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

ポエングの原点に手作り

 「1963年ごろ、請負で職人がもの作りをする時代から、計画生産、見込み生産の時代となってデザインが必要になりました。それがもの作りからデザインに足を踏み出すきっかけでしたね」

 札幌の隣町である恵庭市で、農家の三男坊に生まれた中村さんは、隣家の農機具を作る鉄工所の槌音で育った。実家の増改築でやってきた大工の仕事に自然にひかれた。大工から借りた道具に触れて、家具作りを決心した。工業学校から家具メーカー勤めで実務を学びながら、デザインの仕事が面白くなった。1960年代、まさに大量生産、大量消費の幕開けの時代である。

 1969年にスウェーデンに渡り、Carl Malmstens verkstadskolaに入学。夏休みにKonstfack(工芸とテキスタイル、アートの学校)で木工を学んだ。そこでの活動がデザイナーの大御所Carl Malmsten氏の目に止まり、氏の最後の個展会場で「ベンチを置いて製作実演をしなさい」と言われた。実演したのは木製のサラダボールとサラダサーバー。会場に現れたグスタフ6世(当時のスウェーデン国王)が注文した。

 「サラダボールのデザインはカールで、サラダサーバーは私。2〜3回ダメ出しされて納めたのは今でも王宮のどこかにあるでしょう」

 ポエングは工業製品なのに手作りを感じるのはそのせいなのか。座ってみよう。背中と足の角度がぴったりで腰が楽ちん。驚いたのは深々と腰かける姿勢から「立ち上がりやすい」。スイングで勢いがつく。座るだけでなく立ち上がるところまでデザインが入っている。

 「デザインとは形だけではないんです。機能や強度、経済的な問題などトータルが良いこと。だからぼくらがしなきゃいけないのは、みなさんの生活を少しでも底上げしてあげること、暮らしを少しでも良い条件で支えてあげることです」

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