「人材」と「人財」の違いを考える(2/3 ページ)

» 2011年09月28日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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Human ResourceかHuman Capitalか

 これは英語表記でも同じことが言える。日本でも一般化している「HR」とは“Human Resource”のことだ。これは、ヒトを“資源”とみている。このとらえ方の下では「ヒトは使い減ったり、適性が良くなかったりすれば取り替えればよい」という発想になる。そして経営者は、ヒト資源をほかの資源(モノ・カネ・情報)とどう組み合わせて、最大の成果を出すかをひたすら考える。ヒトは「材」という考え方に近い。

 その一方で、“Human Capital”という表記も増えてきた。これは、ヒトを“資本”とみる。この場合、ヒトは長期にわたって価値を生み出すものであり、生産のための貴重な元手ととらえる。したがって、経営者はひとりひとりに能力を付けさせ、そのリターンをさまざまに期待する発想をする。すなわち、「人財」の考え方だ。

 ヒトを大切に考えるかどうかは、実はこうした些細な表記文字によって推しはかることができる。

石組みとブロック積み

 武田信玄は「人は石垣、人は城」と言った。ひとりひとり違った個性が心を1つにして石垣、城となれば、難攻不落の基地ができあがるとの意味だろう。

 さて、石垣を造るのに、1個1個形の違う石を組み合わせて完成させるのは技術的に難しいし、手間や時間がかかる。しかし、いったん巧みに組んでしまえば、なかなか崩れない。それに比べ、レンガブロックを積み上げる建造法は、形状と質を規格化し均一化したブロックを扱うため、技術的には容易で、スピーディーに柔軟的に建造ができる。しかし石垣ほどの頑強さは出ない。

 事業組織は、実に多様な個性を持つヒトの集まりである。ひとりひとりの働き手を、1個1個形の違う石として生かし、事業という建造物を組み立てていくのは、経営者にとって、人事担当者にとって、上司にとって、とても手間がかかるし、わずらわしいし、忍耐と根気の要る作業となる。しかし、そうして成就させた事業というのはとても強いものになる。

 その一方、働き手を組織の要求する人材スペックの枠にはめ込み、技能・資格を習得させ、ある価値基準に従わせる――つまりヒトを規格化し、均質化したブロックにすることで、事業目標をスピーディーに効率よく達成させるという方法もある。経営者にとって、人事担当者にとって、上司にとって、働き手をブロックにしたほうが何かと扱いがラクになるのだ。しかし、人々の関係性は粘りのあるものでなくなり、失うものも多い。

 もちろんこの2つは両極の姿であって、実際の組織はこの両極の間のどこかでヒトをある割合「石」ととらえ、ある割合「ブロック」ととらえながら用いていく。組織にとって大事なことは、ひとりひとりの働き手を極力個性ある「石」として生かすことだ。ヒトをいたずらに「ブロック」化して、取っ換え引っ換えやればいいと考える組織は早晩、ヒトが遠ざかっていく。

 また、働き手にとって大事なことは、ほかと代替のきかない「石・岩」となって輝くことである。決して没個性な「ブロック」になってはいけない。組織にとってブロックは使い勝手がよく、同時に取り換え勝手もいいのだ。

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