どんな人生を送りたいか? ロールモデルは自分で作る(2/3 ページ)

» 2011年12月27日 08時00分 公開
[寺西隆行,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

ロールモデルを求めすぎる若者

 疲れて帰ってくる父親を見て、酒井氏は次のように思ったと書いています。

私は父のようにはなりたくない。だから、私にはロールモデルが存在しない。40代をこれからどう生きるべきか指針は外部には存在しない。スティーブ・ジョブズがかつて言ったように、「自分の内なる心の声に従って生きる」しかないのだ。

 「父のようにはなりたくない」と思った、ということは、きっと「父のようにはならなくていい」ような生き方のヒントをくれた人間に、子どもの時にどこかで出会っているからなんだと思います。

 つまり……戦前を生きた女性たちはきっと、「女性は家庭を守るもの」がデフォルトで、たとえ「家庭で辛そうにしている母親」を見ても、女の子が「そうはなりたくない」と思う機会がほとんどなかったのでは? と思うわけです。周りの女性がみんな、そうしているわけですから。

 だからきっと、著者にはロールモデルが身近に存在しなかったんだとは思うものの、ちょっとした「ヒント」は身近にあったのでしょう(本人自身は気付いていない場合もありますが)。

 さて、今の若者を取り巻く現状は「(残念ながら)ロールモデルになるような、芯が強く、どっしりと生きている大人は少なくなってきている(と感じる)」「外部環境は複雑になり、生き方も多様化しているため、選択・決断が必要な機会はどんどん増えてきている」と見受けられます。

 なのに……自分で選択・決断することが苦手で、ロールモデルを求め、探し、誰かの生き方をなぞろうとする若者の割合も上昇しているような感を受けます。感覚的なものにすぎませんが、「誰かがそう言ったから」「誰かがそうしているから」のような、ある意味効率的、ある意味他責な生き方をする、若者総体としての雰囲気を感じるのです。

 Z会が関係する、大学受験生を見ていると顕著です。「難関大学(とくに東大)に合格した先輩の1週間のスケジュール例」というテーマの記事は人気絶大。

 そして、その先輩の部活状況や、予備校の通い方の状況が少しでも自分と違うと、「毎日部活があって、予備校には夏まで通わず、そして学校の宿題がすごくあるような先輩の例を載せてほしい」と、どこまでも自分カスタマイズを希望するんですよね。「あるといいなー」くらいの希望であれば、あるにこしたことはないと思うのですが、その程度の希望の強さではなく、「自分と少しでも違うと“参考にならない”と感じる」雰囲気を強く感じます。

 多分、これでは、より生きにくくなると思うんですよね。未来が多様化していますから。ぴったり、自分の(潜在意識の中での)理想とあてはまるロールモデルばかり求めていると、「ヒント」を得る能力も落ちると思うんです。

 酒井さんはロールモデルが存在しなかったとおっしゃっていますが、「父親のようにはなりたくない」という気持ちを持っていたということは、父親以外の生き方を少しでも持ち合わせている存在そのものを探し、見つけ、そこから「ヒント」を得るアンテナは立っていたのではないでしょうか。

 ロールモデルではなく、生き方の「ヒント」を、交わった人から見つけ、いろいろな「ヒント」を自分で消化し、最終的に自ら選択・決断していく。これを若い人には勧めたいと思います。

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