「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか(3/4 ページ)

» 2011年12月29日 22時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

大学本部から「早野黙れ」と言われたが

早野 その一方、とにかくクズの情報がたくさんあるわけですね。例えば、東京電力もたくさん間違いを犯しました。例えば、4月1日に東京電力が「福島第二原発敷地内空気から塩素38m(放射性物質)が検出された」と出したのですが、「【April Foolにしても,ありえない!】ガンマ線による東電の核種の同定に、明らかな間違いあり。プロなら全員同意するはず。もとのガンマ線スペクトル、一度見せてください」(4月1日8時7分)とツイートしています。

 研究者はしつこいんですね。しつこいので、非常に長期的にいろんなものを見ました。文科省がなかなか全国の放射線量グラフを作らないので、研究者の仲間と一緒に作って、しつこくしつこく毎日毎日ツイートしました。

 福島県内の放射線量グラフ作成も、12月になってもまだ続いています。グラフ作成者(谷田聖氏)は、僕の昔の教え子です。

 次画像は高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所が出しているセシウム134と137のデータを私がグラフにしたもので、3月から12月に至るまでずっとツイートしています。要するに私は何が起きているかを知りたいんですね。私自身が知りたいから、こういうことをしています。

 それから冷温停止という話がありましたが、原子炉圧力容器下部の温度はどうなっているのかというグラフを作りました。「燃料がすべて下に抜け落ちている」と(東京電力が)言っていましたが、注水量に追従して温度が上下しているので、「すべて下に落ちているわけではなくて、まだどこかに残っているよね」とぶつぶつ言いながら、こういうグラフを毎日毎日更新しています。

 次画像はちょっと毛色が違うのですが、太陽光発電にどのくらいの実力があるのか知りたかったので、8月からメガソーラー「浮島太陽光発電所」の毎日の発電量をグラフにしました。長期でやっていると、冬になるとやっぱり発電量が減ってくるとか、すごく成績の悪い日もあるとか分かってきます。

 今まで、あまり喋ったことのない秘密を少し話しますと、やはり私たちは組織に属している人間なので、喋っていいことといけないことがあるかということで、東京大学が次画像のような通知を出しました。要するに「大学本部が仕切るので、個々の教員は勝手なことを言うな」という通知です。私は直接、大学本部から「早野黙れ」と言われました。そこで理学部長などとも少し相談して、黙らないことにしました。

 次にSPEEDIの問題というのがあって、実は僕は事故前にはSPEEDIというシステムがあることすら知らない完全な素人でした。しかし、ちょっと調べたらSPEEDIというのもあるだろうということで、「原子力安全保安院の、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムSPEEDIがフル稼働中ではないかな。しかし計算結果は公表されていない?」(3月15日14時20分)とツイートしています。

 非常に気になったので、いろんな方とお話をして、3月17日に鈴木寛文部副大臣(当時)のところにうかがって、「とにかく情報をすべて出した方がいい」と言って、公開をお願いしました。私が言ったから公開されたわけではないと思いますが、それから1週間後の3月23日にSPEEDI試算結果が公表されました。

 外国メディアという問題もありました。国内でのコミュニケーションということもありますが、国として外国にどう伝えるかということが非常に大事だった時期がありました。

 3月某日に、官邸の某氏から「外国メディアに英語で専門的な内容を解説する役をお願いできますか」ということを私は頼まれました。私は「“すべての”情報を開示してくださるのですね?」と言ったら、官邸の某氏は「×××」とおっしゃったので、「残念ながら……」ということで実現しませんでした。しかしその後、私は可能な限り外国メディアの方にはレクチャーをしています。

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