マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba」
音楽産業ブームはもう来ないのだろうか?
統計を見ると、CD生産額は過去5年で4割以上減少、CD販売店はほぼ半減、CDレンタル店もジリ貧が続く。大ヒットがあっても“女子団体舞踊”くらいなので、大多数の音楽家はもうかっていない。
ネット配信はどうか。成長市場のはずなのに、日本では著作権問題で配信が進まず、2009年をピークに減少。YouTubeやネットラジオ、音楽シェアで聴くスタイルが定着したせいもある。それにしてもみんなが消費する市場なのに、この衰退ぶりにはため息が出る。
好調なのは発売後10年で3億台を突破したiPodと、通算100億曲以上のダウンロードを達成したiTunes Storeを擁するAppleだけとは……。
かく言う私自身、iPodさえ眠らせて、iPhoneで音楽を聴くようになってもう3年以上。曲のバラ買いは嫌いだったのにいつの間にかしているし……まさにiTunesの奴隷となってしまった。
iTunes全盛の世の中だが、音楽家から「iTunesの音質を何とかしてほしい」という声も聞こえる。つい先ごろも、シンガーソングライターのニール・ヤングが吠えた。2012年1月末、『D: Dive Into Media Conference』で彼はこんな発言をした。
「僕は自分が過去50年やってきたアートの形を救いたい。我々はデジタル時代に生きているが、残念なことにそれは音楽をむしろ悪化させている」
ダウンロードはお手軽だが音質がひどい。iTunesのビットレートは平均256kbps AACで、オリジナル音源に比べて劣る。「iPodの開発をリードした故スティーブ・ジョブズだってレコードを聴いていたんだぜ」と語ったヤングは、こう付け加えた。
「デジタルが悪いとか劣るんじゃない。今のデジタルが音楽というアートに正しいことをしているかどうかだ。デジタルでは“便利を取るか品質を取るか”になってしまったが、そんな選択じゃないはずだ」
もっと良質のデジタル形式を普及させて、iTunesでも良い音で聴く。それはいい。だが、私はこの問題はもっと根が深いと感じる。デジタル時代になり、みんな同じ場所(電車や路上)、同じ用具(スマホや白いイヤフォン)で聴く。音楽スタイルまでも“圧縮された”のではないか。それが音楽市場を一層退潮させているのではないか。
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