中国が軍備拡張、日本にシーレーンの危機管理シナリオはあるか?藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年03月05日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 中国の全国人民代表大会(全人代)第5回会議が3月5日から開かれる。この会議で注目されているのが国防予算だ。前年比11.2%増の6702億元(約8兆7000億円)。昨年が12.7%増だったのに続く大幅増加である。

全国人民代表大会公式Webサイト

 中国の国防予算は1989年以来ほぼ一貫して10%前後の高い伸び率を保ってきた(リーマンショック後の2009年の公表数字も7.5%増だった)。ほぼ5年で倍になるようなペースである。全人代の李肇星報道官(前外相)はこのことについて、「中国は沿岸線も長く、広大な国土を守らなければならず、この金額でもGDP(国内総生産)の1.38%と、ほかの大国に比べて多いわけではない」と強調している。

 もっとも中国の国防予算の数字が実態とはかけ離れたものだということも広く言われている。例えば、2011年の米国防総省による連邦議会への報告書によれば、2010年の中国国防予算は公表数字のほぼ倍の1600億ドル(約12兆8000億円)に達するとしている。軍事予算の透明性を周辺各国から要請されていることから、中国政府の姿勢にも変化が現れていると評価されているが、それでも今年の予算も「過少申告」されていることは間違いあるまい。

 周辺諸国にとって大きな問題は、中国が隠そうともしない中国の資源ルートへの野心だ。とりわけ現在の焦点は南シナ海。ここではフィリピン、ベトナムなどが中国との領土紛争を抱えている。中国がこの地域を「核心的利益」として西沙諸島や南沙諸島などの領有権を主張しているからだ。

 このため中国人民解放軍は空母機動部隊を編成することを当面の目標とする。旧ソ連から購入した空母は改装を終え、試験航海を繰り返しているほか、自前でも2隻の空母を建造中だ(実際に、運用されるまでには数年はかかるだろうし、3隻の空母を保有しても同時に任務に就くのは1機動部隊だとある軍事関係者は言う)。

 中国人民解放軍海軍のこうした戦力増強は、中国が資源の輸入国になったからである。国益を守るために、原油や鉱物資源がアフリカや中東から運ばれてくるシーレーンを防衛するというわけだ(日本でもシーレーン防衛が議論されたことはあるが、自衛隊の能力を大きく超えることもあって立ち消えとなった)。つまり中国海軍の任務は、従来の沿岸防衛から遠洋へ拡大したのである。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.