成功の反対は失敗ではない!? 跳ぶリスクと跳ばないリスク(1/2 ページ)

» 2012年03月09日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:村山昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。企業・団体の従業員・職員を対象に「プロフェッショナルシップ研修」(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)を行う。「キャリアの自画像(ポートレート)」を描くマネジメントツールや「レゴブロック」を用いたゲーム研修、就労観の傾向性診断「キャリアMQ」をコア商品とする。プロ論・キャリア論を教えるのではなく、「働くこと・仕事の本質」を理解させ、腹底にジーンと効くプログラムを志向している。


 私は最近、「概念工作家」という肩書きを付けるようになりました。英語表記では「コンセプチュアル・クラフツパーソン(conceptual craftsperson)」と勝手に造語をしています。

 私は、子どものころから工作が好きで、木工や粘土細工、紙工作、電気回路のハンダ付けなど時間を忘れてやっていました。大人になるにつれ、職人の手仕事に関心がわいてきて、「クラフツマンシップ」というような精神性にあこがれも抱くようになりました。私が最初、メーカーに就職したのもそんな流れでした。

 ところが私は、いつごろからか、モノの切り貼り・組み立て・造形よりも、概念・観念といったコトの切り貼り・組み立て・造形といった表現のほうに魅力を感じるようになりました。

 なぜかというと、仕事に対する動機が変わっていったからです。最初、メーカーに入り、希望通り商品開発部門で働いていた時は、「何か新規性のあるモノを作って、世の中を驚かせてやろう」のような、言ってみれば「モノを通して新しいスタイルを提案すること」に面白みを感じていたように思います。

 ちなみに“ように思います”という表現になるのは、働く動機というのは、往々にして進行形で動いているときには見えにくいものだからです。

 そうして20代の月日は流れ、30代前半くらいにあるアート作品本に出会いました。オノ・ヨーコの『グレープフルーツ・ジュース』です。ページをめくるたび次のような文が並んでいます。

 「地球が回る音を聴きなさい」

 「空っぽのバッグを持ちなさい。丘の頂上に行きなさい。できるかぎりたくさんの光をバッグにつめこみなさい。暗くなったら家に帰りなさい。あなたの部屋の電球のある場所にバッグをつるしなさい」

 「想像しなさい。あなたの身体がうすいティッシューのようになって急速に世界中に広がっていくところを。想像しなさい。そのティッシューからちぎりとった一片を。同じサイズのゴムを切りなさい。そしてそれを、あなたのベッドの横の壁につるしなさい」

 「月ににおいを送りなさい」

 「録音しなさい。石が年をとっていく音を。」

 「ある金額のドルを選びなさい。そして想像しなさい。a その金額で買えるすべての物のことを。想像しなさい。b その金額で買えないすべての物のことを。一枚の紙にそれを書き出しなさい。」(南風椎訳・講談社文庫より)

 これは、「インストラクション・アート(指示する芸術)」と呼ばれる分野のアートです。彼女のこの作品が、ジョン・レノンに大いにインスパイアを与え、名曲『イマジン』につながっていくという話は有名です。

 ちなみに、この本の最後に示されたインストラクションは、「この本を燃やしなさい。読み終えたら」。……そして、本の末尾にはこんな言葉が付記されています。

 「This is the greatest book I've ever burned. ───John」

 さて本題に戻り、私はこの本に触れて「ほほー、そうか。人の内にアート作品をこしらえさせるアート作品なんや」と、感心しきりでした。

 自分の最終創造物は、人の外に創り出すものではなく、人の内に創り出されるもの。つまり、創造の場は、人の心の内。さらにその創造の主は、自分が半分、それを受けた人が半分。そしてできあがった作品は、その人の内側に留まり、その人のその後に影響を与えていくかもしれない。

 消費財というモノ作りが、人の外側に創り出して、人を外側から影響を与えていくのとはまったく正反対のアプローチです。

 「モノを通して新しいスタイルを提案すること」に面白みを感じていた私は、次第に「概念や観念というコトを通して人の内側に何かを響かせてみたい」──そんな気持ちが強くなっていきました。

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