グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年3月23日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
讃岐うどんの「はなまるうどん」が奇策を展開する準備をしているという。何と他社発行の有効期限切れ割引券・金券を持ってくれば、300円以上の飲食代金から一律50円を割り引くというのだ。
3月23日付日本経済新聞消費欄の記事によれば、新施策は4月2日から開始される。
はなまるうどんの見出した商機は、即時の消費者調査がヒントになったようだ。同調査では、「消費者の約4割が期限切れの割引券などを持っていると答えた」と記事にある。対象となるのは「割引券のほかに商品券のほか、乗車券や株主優待券なども受け付ける」という。
この施策の効果はどのような所にあるのか。まず、消費者心理から考えてみよう。
せっかく手に入れた割引券や金券。しかし、ふと気が付くと期限切れになっている。何とも残念な気持ちいっぱいになる。そんな時、「それ、うちで使えますよ!」とはなまるが手をさしのべるのだ。「はなまるって、いいヤツじゃん!」というパーセプションを獲得することができる。それは、自社の既存顧客ばかりではない。今まではなまると接点のなかった潜在客、「丸亀製麺」など同業他社を利用していた競合顧客を引き込めるようになるのだ。
「市場資産の負債化」という。競合や他社が割引券や金券で自社の顧客、または見込み客としたターゲット層を、自社では割引券の製作や配布のコストをまったくかけずに取り込む。つまり、競合や他社は結果的に、はなまるのために、コストをかけて自社の割引券や金券を発行したことになるのだ。
はなまるの調査結果のように、一定の割合で期限切れは発生する。発行元の企業は一度期限を切ったからには、券を受け入れることはできない。その時点で、それがそのまま、はなまるの商機となるのである。先行企業が積み重ねた「市場資産=顧客・見込み客の数」という優位性を無効化するというという戦略なのである。
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