“作られたスクープ”の裏にあるもの――それは企業の巧妙な手口相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年03月29日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 週刊誌や月刊誌の中吊り広告を眺める中で、「独占スクープ」的な刺激的な見出しを目にする機会が読者も多いはず。筆者も元は通信社記者だ。スクープという響きには特別な思い入れがある。ただ、この「スクープ」の中には、首を傾げたくなるものも含まれている。今回は、企業戦略の一環として、巧妙化する“作られたスクープ”に触れる。

スクープの内訳

 ずぼらな記者だったが、筆者もかつてなんどか独自ネタ、いわゆるスクープをモノにしたことがある。同業他社が一斉に後追い記事を出し、テレビや雑誌も追随するのは書き手冥利に尽きる。何カ月も張り込みを続け、関係者の間に潜行してネタを掘り起こしたあとであれば、その感慨は一入だ。

 先にも記したが、読者の多くは新聞紙上や電車の中吊り広告で「独占スクープ」の文字を頻繁に目にするはず。スクープとは他のメディアが伝えていない世間にインパクトを与えるニュース全般を指す。特定のテーマに関し、問題意識を持った記者が丹念に取材して大きなネタを掘り起こすケースが一般的。

 巨額の年金資金を消失させたAIJ投資顧問の問題をスッパ抜いた日本経済新聞の報道が典型的なパターンだ。だが、このほかにも、スクープの大きな割合を占めるのが情報提供、いわゆる「タレコミ」を端緒に取材を開始し、ネタを世間に明らかにする場合だ。

 筆者がモノにしたスクープもこのパターンだった。1990年代のバブル経済崩壊後、不良債権を抱えた日本の金融機関や事業会社が一部の外資系銀行を通じてこれをタックスヘイブンなど海外に飛ばしていたのだ。

 当時、筆者は外銀の内部関係者であるネタ元と接触して信頼関係を構築。最終的に飛ばしの決定的な証拠資料を入手した。

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