覚せい剤を密輸した男が明かす、北朝鮮の仕事術窪田順生の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年04月17日 10時30分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

夜の日本海に浮かぶ「荷物」を見つけ出せ!

 そのなかで詳しい手口は紹介したが、「北との取引」は驚くべきものだった。

 まず、北朝鮮側は覚せい剤をビニール袋で梱包し、工作船で夜の闇に乗じて日本の海域へ侵入、ぽちゃんと落とす。その連絡を受けたX氏たちが日本から漁船で出港し、潮の流れを計算したポイントで待ち構えて回収するというのだ。これを業界用語で「瀬取り」と呼ぶ。

 マリンスポーツや釣りなどをしている人からすれば、「バカじゃないの」と思うことだろう。外海に出れば激しい潮の流れがあるし、風もハンパじゃなく強い。海難事故で遭難者がなかなか発見されないことからも分かるように、大海原でプカプカ浮かぶ小さな物体を数時間後に見つけなんて、常識で考えれば、まず「不可能」である。

 だが、X氏と北朝鮮はフツーではない。海図で海底の地形や潮の流れを計算し、覚せい剤の梱包方法まで厳密なルールをつくって、実際に覚せい剤100キロの密輸をやってのけたのだ。

 X氏は沿岸で指示を下す役目だが、漁船に乗り込んで回収を担当した者たちはかなり酷い目にあったという。漆黒の海のなか、わずかなライトで海面を照らし、激しい揺れと波に襲われながら、小さな目印を探す。日の出までの限られた時間のなか、いつ巡視船がくるかという恐怖と闘う男たち。あくまで自分の計算を信じるX氏。もちろん、やっていることは許されることではないが、そこには『プロジェクトX』さながらのドラマがあった。

海に浮かぶ小さな物体を見つけることは、常識で考えれば難しい(写真と本文は関係ありません)

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