写真週刊誌フライデー編集部、ロイター通信社などを経て、現在、ニューズウィーク日本版の編集記者。国際情勢や社会問題を中心に取材を行っている。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)、近著に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』
米国務省は4月、パキスタンのイスラム過激派組織ラシュカレ・トイバのリーダーであるハフィズ・サイードに1000万ドル(約8億円)の懸賞金をかけた。日本ではあまり知られていないラシュカレ・トイバは、「次のアルカイダ」と呼ばれるような危険で残忍なテロ組織で、そのリーダーであるサイードに対しては欧米の諜報機関が警戒を強めている。拙著『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)でも、反欧米を標榜する彼らがいかに世界的に暗躍しているかに迫った。
サイードの懸賞金は、米政府が手配するテロリストの中で2番目に高額だ。これによりサイードは、アメリカが対テロ戦争で戦うアフガニスタンのイスラム武装勢力タリバンのリーダー、ムッラー・オマル師と肩を並べたことになる。現在の最高額は、エジプト人アイマン・ザワヒリの2500万ドル。ザワヒリは、国際テロ組織アルカイダのリーダーだったウサマ・ビンラディンがパキスタンで殺害された後に最高指導者になったテロリストだ。
ただこうした手配はあまり意味をなさない。現にサイードは今も、パキスタン第2の都市ラホールで毎週のように説法を続けており、懸賞金が発表された後も、支持者を集めて堂々と集会を行っている。実は、パキスタンの政治や外交を支配するパキスタン軍の中にはテロリストを援助する者がおり、米政府も容易に手は出せない。さらにパキスタン国内では、サイードは犯罪者ではない。
そんな奇妙な状態がまかり通る、国際手配とはいったい何なのか。
海外を観光で訪れ、自覚なく「犯罪」を犯してしまう日本人は決して少なくない。そして幸か不幸か、帰国してから犯罪の容疑者になってしまうケースもある。そうなれば国際的な刑事機関による国際手配の対象になってしまう危険性すらある。
現在、国際刑事警察機構(ICPO=インターポール)によってリストアップされている国際手配の日本人は、少なくとも16人。容疑の内容はさまざまだが、彼らの中には日本で普通に生活を送っている人たちもいる。
2003年、日本の大手住宅リフォーム会社の社員が、慰安旅行先の中国広東省珠海市のホテルで、集団売春を行った。女性を斡旋したクラブ経営者の中国人女性らは終身刑になり、中国の公安当局は斡旋を依頼したリフォーム会社社員3人を国際指名手配した。
それでも、彼らが日本の警察から逮捕されることはない。事件当時に内閣官房長官だった福田康夫元首相は「一般的な協力要請だから、捜査当局においてわが国の国内法にのっとって対応する。ICPOの手配だけで身柄拘束とか、そういうことはできない」と、記者会見で語っている。つまり売春婦を集めるよう頼むのは、中国では犯罪であっても、日本では逮捕されない。
ただ、この3人は今もインターポールから国際指名手配犯として名前や生年月日、容疑内容だけでなく、顔写真まで公表されている。インターポールに国際手配されたまま生活するのは、心地の良いものではないだろう。
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